Death in Venice(ベニスに死す)

世界を震撼させるコロナウイルス。NZではロックダウンも解除され、少しずつ日常を取り戻しつつある今日だが、感染症の恐ろしさを改めて認識させられた。残念ながら所謂『三密』の条件にドンピシャの映画館は暫しのおあずけだが、出歩く機会がめっきり減り、『バブル』の中で読書やDVD鑑賞三昧の生活に浸る人も多い今、二月に渡り感染症を巡る二人のノーベル文学賞受賞作家の小説と、それらを映画化した作品を傍らに、感染症について一考してみるのも如何だろう?

20世紀初頭のドイツ人作家トーマス・マンの著作「ベニスに死す」。イタリアの保養地ベネツィアで静養する著名な作家、グスタフ・フォン・アッシェンバッハは、長期逗留中のポーランドの上流階級の少年タージオの美しさに魅せられる。やがて迫りくるコレラの脅威を知りつつも、日々少年の姿を追ってベネツィアを彷徨い続け、ついにはコレラに感染し死を迎えるのだった。アッシェンバッハは、マン自身でもあり、マンの友人でもあった作曲家グスタフ・マーラーでもあると言われる。ただし、実際のマンもマーラーもコレラに感染死したわけではない。

これを映画化したのが、イタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティの「ベニスに死す(Death in Venice)」。映画では作家ではなく作曲家のアッシェンバッハを演じるダーク・ボガードの少年に固執する老いの醜さ、そしてこの映画で見出された奇跡の美少年ビョルン・アンデルセン演じるタージオの屈託のない若さと完璧な美。全編に渡るマーラーの交響曲第5番「アダージェット」。海岸で化粧が落ち、髪染めが滴りアッシェンバッハの命が尽きる最期のシーンで、手を伸ばしても決して届かないタージオが象徴する若さと美の幻影、そして、アッシェンバッハの死体が速やかに運び出される無情さ。

奇しくもヴィスコンティは今回イタリアのコロナ禍の中心地となったロンバルディア州ミラノ出身の貴族。幼少期より14世紀に建てられた城で芸術に親しみながら育ち、やがてパリでココ・シャネルに映画監督のジャン・ルノワール(印象派のピエール=オーギュスト・ルノワールの息子)を紹介され、映画の世界に入って行く。

感染力が非常に強く、これまで7回のパンデミックが発生したコレラだが、19世紀末にドイツの細菌学者コッホがコレラ菌を発見し、ワクチンや治療薬が開発された現在、衛生状態が向上した先進国ではコレラの発生は著しく減った。コレラで死亡した著名人には、ドイツの哲学者ヘーゲルや、ロシアの作曲家チャイコフスキーなどがいる。

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