自然のことだま(4話)

◆作・題字・イラスト◆ はづきInstaguram:nzhazuki┃w:malumaluhazuki.com

みなさんは、雨粒の声をご存じでしょうか?

それは、「未練はあるかい?」です。

台風でも、冬のしとしとと続く雨も、真夏の通り雨も、すべて。そう言って落ちてきます。

「何の後悔もなく、思い残すこともなく、生きるのは、無理でしょう?」と、私は返します。

「後悔は未練じゃない。思い残しは、未練じゃない」

ときに、そんなため息と微笑のぜを残して、雨粒は、土に飲み込まれていきます。

ある夏。

「久しぶりだな。未練はあるかい?」

その声の奥には、小さな期待が光っていました。

「あるような、ないような」

正直に答える私に、憐れむような口元で何かを言いかけて、雨粒は土に消えました。

夏、秋、冬、春と過ぎ、また夏。

「また会ったな。未練はあるかい?」

空高くに目を向けながら、雨粒はいつもと同じ質問をしました。

「あるけど、ない」

私はまた、正直に答えました。

「そうか、飲みな」

視線を空から私へと瞬時に移し、ニカッと笑って、雨粒は、私の根の中へと、グイッと入ってきました。

今までで、一番おいしかった雨粒のお話です。

この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.106(2019年1月号)」に掲載されたものです。

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