- 2020年7月22日
この砂がぜんぶ落ちるまで(第8回)
大島は、朝から幾度となく、砂時計をひっくり返していた。砂が落ちるのが、妙に速い気がする。 数日前、思わず抱きしめた夏芽から知らされたのは、婚約者の存在だっ […]
大島は、朝から幾度となく、砂時計をひっくり返していた。砂が落ちるのが、妙に速い気がする。 数日前、思わず抱きしめた夏芽から知らされたのは、婚約者の存在だっ […]
重なり合った大島と夏芽の手の上に、二人で買ってきたばかりのアンティークグラスを屈折しながら通り抜けた光が、うっすらと虹色に伸びている。 大島は、夏芽の左手 […]
夏芽を、店の奥にある自宅に上げて以降、大島は、彼女を待つともなしに待っている自分に、薄々気づいていた。だから、二週間後に連絡が来たときには、随分と長い間、 […]
「おぉ、来たか」 押し入れの奥から出てきた猫の置物を写真に撮って送り、それに対して夏芽から「近いうちに見に行く」と返事があったときには、半分は社交辞令では […]
夏芽からの返信は、意外なほどに早かった。砂時計の砂が落ちるのを見届け、店に鍵をかけて自宅のキッチンに入ろうとしたとき、メッセージの着信を知らせる音が、ポケ […]
「それで、夏芽、今何してるの?」 夏芽がコーヒーカップをテーブルに置いたタイミングで、大島は尋ねた。 「インテリアコーディネーター。大学を卒業して就職し […]
自宅の一部を改装して、長年集めてきた小物や本、食器などを並べている小さな雑貨店の中は、常に整然と整えられている。これは、店主である大島龍平の性格によるもの […]
少しずつ、夕暮れていく。 小さなテーブルに置かれた砂時計を、大島は、クルリとひっくり返した。最初の一瞬だけチリリと音を立てた砂は、静かに小さな山を作ってゆ […]
雲間から顔を出したおひさまが、ひとり言のように、話しかけてくれました。 「この季節は、格別なんだ」 そう言うおひさまの視線は、あちこちに動いていました。 風 […]
私が楽しいときには、その星は、空で一緒に笑ってくれます。 落ち込んだときには、私の枝の中まで降りてきて、黙って暖めてくれます。 泣いてしまうときには、そっと […]