「気候と郷愁」坂口安吾(青空文庫より)

 私は越後の新潟市に生れたが、新潟市に限らず、雪国の町は非常に暗い、秋がきて時雨が落葉を叩きはじめる頃から長い冬が漸く終つて春が訪れるまで、太陽を見ることが殆んど稀にしかない。冬の暗澹たる気候には発狂しさうな焦燥を感じて […]

「陰翳礼讃」谷崎潤一郎(青空文庫より)

  (最終章を抜粋) この間何かの雑誌か新聞で英吉利イギリスのお婆さんたちが愚痴をこぼしている記事を読んだら、自分たちが若い時分には年寄りを大切にして労いたわってやったのに、今の娘たちは一向われ/\を構ってくれ […]

「I can speak」 太宰治(青空文庫より)

 くるしさは、忍従の夜。あきらめの朝。この世とは、あきらめの努めか。わびしさの堪えか。わかさ、かくて、日に虫食われゆき、仕合せも、陋巷ろうこうの内に、見つけし、となむ。 わが歌、声を失い、しばらく東京で無為徒食して、その […]

「夢十夜」夏目漱石(青空文庫より)

(十夜のうち第一夜) こんな夢を見た。 腕組をして枕元に坐すわっていると、仰向あおむきに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭りんかくの柔やわらかな瓜実うりざね顔がおをその中に横たえている。 […]