去年マリエンバードで

映画漬けの大学時代に観た、超難解で理解不能のこれぞフランス映画、「去年マリエンバートで(Last Year at Marienbad / L’Année dernière à Marienbad)」が、時を経てまさかニュージーランドで観られるとは!英語圏ならではの弊害?英語映画以外、普段なかなかお目にかかれないニュージーランドにて、フランス映画を観ることのできる貴重な機会を与えてくれるFrench Film Festival(以下FFF)。Bunkamuraのル・シネマで上映されるような大作から、ミニシアター系の無名の新人監督による佳作まで、2週間という短期間に濃縮して20本以上が上映される。難を言えば、見逃したらアウト・・・暇人じゃなければ、なかなか自分の観たい映画が観られないところか。

「対象とする観客が少なすぎる」との判断から、カンヌ国際映画祭への出品を拒否された(後に、同年開催されたヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞受賞)、ヌーベルバーグ左岸派のアラン・レネ監督と、ヌーヴォー・ロマンの代表的作家であるアラン・ロブ・グリエ脚本の、1961年モノクロ映画「去年マリエンバートで」。登場人物は男Xと女A、女Aの夫のM、その他紳士淑女。場所はどこかのバロック調のホテルの城館と至ってシンプル。富裕な紳士淑女が集う豪奢な城館でのヴァカンス。情熱を欠いた社交場では、すべてがルーチンで気怠い。男Xは女Aに、「去年マリエンバートで出会った。」と語りかける。「私は知らない。」と答える女A。男Xは、去年マリエンバートで、2人がどう過ごし、どう愛し合い、その後、どうしたのかを、事細かに語り続ける。女Aは、その度に「私は知らない。」と答えるが、次第に現在と過去、現実と虚像が錯綜し、男Xの語った出来事が女Aの記憶に塗り替えられていく。そして、その様子を陰で観ている夫M。「去年マリエンバートで」は現実なのか、男Xの嘘なのか、女Aの記憶なのか・・・

シンメトリーな城館、幾何学式庭園、無人の廊下、鏡の間、バッハのオルガン曲を背景に、そこに佇むシャネルを纏ったデルフィーヌ・セイリグの美しさ。ロブ・グリエ曰く、「非常に緻密に計算された作品で、曖昧さのかけらもない。」あらすじは理解不能でも、この映像は一生記憶に残り、忘れられない一作になること間違いなし。

この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.108(2019年3月号)」に掲載されたものです。

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