ペスト(La Peste)

ニュージーランドでは学校や仕事、小売店や飲食店も再開し、少しずつ日常生活を取り戻しつつあるが、今現在もコロナウイルスと戦闘状態真っ只中の国もある中、先月号に引き続き感染病映画の紹介を続けよう。

数週間に渡りイタリア、フランス、イギリスでベストセラーに輝き、楽天ブックスの文庫ランキングでも堂々の1位を獲得した、20世紀の文学を代表するフランス人作家アルベール・カミュの「ペスト(La Peste)」。所謂、世界文学全集に収められているような文学作品が再版を重ねることは珍しく、如何に人々が感染病に注視し、畏怖してていたかが分かる。

ペストはかつて『黒死病』といって怖れられ、14世紀ヨーロッパでのパンデミックでは人口の3分の1から3分の2が命を落としたと言われる。急激な労働人口の減少により、イギリスでは荘園制の穀物栽培から羊の放牧への転換が進み、現在のニュージーランドの酪農の礎を築いたことは興味深い。その後、ヨーロッパを中心に幾度かの流行を経て、19世紀末には中国を起点にパンデミックが起こり、それは日本にも伝わった。その際、流行の中心地だった香港に赴き、ネズミからノミを媒介に人間にペスト菌が伝染することを発見したのが北里柴三郎である。この流行は20世紀初頭に収束したが、この時のアルジェリアを舞台に、『ペスト』という不条理が人間を襲う様子を描いたのが、カミュの小説「ペスト」である。

老若男女、富める者、貧しい者、善人と悪人、地位や民族に関わらず、ペストは襲い掛かり、人間は無慈悲な運命に弄ばされる。それは、洋の東西を問わず「信じる者は救われる」「祈れば通じる」「因果応報」「善因善果」といった宗教観や道徳観を根本から覆す。

その「ペスト」の舞台をアルジェリアのオランから、現代の南米の架空の都市オランに移し、原作にほぼ忠実に映画化したのが、ルイス・プエンソ監督の「プレイグ(The Plague/La Peste)」。1匹のネズミの死が悲劇の幕開けだった。医師リウーはそれがペストによるものだと気づいたが、隠蔽しようとする政府、罪深き人々のせいだと説く神父、この機に特ダネを挙げようとする報道者、犯罪者に頼み脱出を試みる報道者、各々の思惑が錯綜し、やがてオランの街には死者が増え、静かな死の恐怖に包まれていく。そして、純粋無垢な聖歌隊の少年の死を機に、神父はこの不条理が受け入れられず遂には自らも死に、残りの者たちは医師に協力を申し出るのだった。厄災は突然潮を退いたように終息する。しかし、犯罪者コタールが残した最期の言葉「ペストはまだ終わっていない。又、やって来るぞ。」、カミュの原作では、「ペストは決して消滅することなく生き延び、いつか人間に不幸と教訓をもたらすために、どこかの幸福な都市に彼らを死なせに現れるだろう。自分はそのことを知っている。」が不気味な余韻を残し、コロナ後の全世界のことをまるで戒めているように感じるのは私だけであろうか。

来月号では『三密』の最後の砦の映画館の再開を乞うご期待。感染病映画の紹介第3弾がないことを祈る!

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