「資産の将来を考える」信託と遺言について

「資産の将来を考える」

護る。

英国法が国の基礎となっているニュージーランド。
日本の税制度とは異なり、贈与税や相続税がないこの国だからこそ、自分の資産を家族のために「補償」したり資産の将来について考えておきたい。家の購入や結婚、出産や離婚した時などに、現金や不動産などの資産をどうするのか、どうしたいのかを考えて補償することは一般的であり、若い人でも不測の場合に備えて「資産を合法に護るための手段」を用いている。主な手段として「Family Trust」の設立や「Will」の作成などが挙げられる。この手段は、事業している場合にも同様に関係してくるので、再度おさらいという意味で押さえておきたい。

<生前と死後>
家族信託や委任状、遺言などを残さずに亡くなった場合、相続が発生して、被相続人名義の預貯金や不動産などの資産は相続人の名義に変更するまで自由に動かす事ができなくなる。相続権利を持っている人が高等裁判所に遺産管理人の申請(Letters of Administration)を行い、裁判所から遺産管理人として認定、ようやく資産を動かすことができるようになるなど、手続きに時間と費用がかかってくる。被相続人が運営するビジネスの支払期日が迫って慌てる、という状況にしないためにも、財産の処分や移転を明確にしておこう。

主な補償の方法

  • 「家族信託Family Trust」
  • 「遺言Wills」
  • 「保険Insurance」
  • 「永続的な委任状(EPA:enduring power of attorney)」

<生前>
家族信託:家族に将来の利益を提供したり、家族の資産を守ることが目的で設立する法人。資産は個人ではなく、信託によって所有され、受益者の受託者によって管理される。
保険:地震被害や災害に見舞われた時の補償から病気で働けない時のローンの支払い、ビジネス保険など。
永続的な委任状:ある段階で「自分で意思決定を行う能力を失った場合」に、誰かに決定や書名の権限を与える法的文書。預貯金などの資産のためと、パーソナルケアや福祉のためとがある。この委任状があると、任命された誰かが財産や財務の代理を執行することができる。

<死後>
遺言:個人の生前の意思、死後にどうしたいのかを書き示す文書で、個人の意思をその死後に実現するためのもの。自筆証書遺言と法的文書の遺言とがある。

想いを残す、信託と遺言

これまで築いてきた財産、先祖から引き継がれた資産は、子どもやそして孫たちに引き継がれていく。残された人たちが、円満に争うことなく、そして自分の思いをきちんと伝える家族への最後のメッセージを信託と遺言で残しておこう。「相続」が「争族」にならない為にも、ぜひ。

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関係者:
セトラー(Settlor)委託者/財産譲渡者/信託人/資産の所有者で個人や法人。ニュージーランド国内居住者または非居住者。委託者は、信託証書の内容を決めたり、管理者の選定や解除などの規定を決める権利を得る。
トラスティー(Trustee)受託者/管理者/被信託人。信託の資産を管理する人に任命された人。委託者の資産を信頼できる形で管理するため、家族や弁護士、会計士やトラスティーサービスを行っている専門の委託機関などが行う(個人の場合は20歳以上)。信託を管理する信託会社法(Trustees Act 1956)では、受託者の最低年齢を規定していないが、20歳未満の者は未成年者(1970年代大多数の年齢法に基づく)であるため、裁判所に就任する権利が一般に認められている。現在、最低年齢を18歳に設定する法案が提案されている。トラスティーはトラスト名義で信託証書に沿って、トラストの資産の保全・投資・運用を行う。
信託証書(Trust deed):信託受託者および受益者が誰であるかを述べ、信託をどのように管理するのかを規定する法的文書のこと。
ベネフィシャリー(Beneficially)受益者。信託の資産の利益を受ける人。家族や子ども、孫など
*注* 同一人物が三者(委託者、受託者、受益者)になることも可能だが、その場合は受益者は同人だけではなく、複数の受益者が必要である。また、受託者が信託について行う決定は、受益者の利益のためでなければならない。
執行人(Executors):遺言者の配偶者や子どもが執行人となるのが一般的で、弁護士や会計士を選定する場合もある。

「信託について」Warren会計士に聞く

信託は大きく分けて3種類、信託(Complying trusts)、外国信託(Foreign trusts)、非信託(Non-complying trusts)からなる。この信託の種類によって、信託の一部が課税対象かどうかが決まる。
信託(Complying trusts)の中でも、以下のような目的で区別される。
ファミリートラスト(Family Trust):家族の為に資産の一部または全部を保持し保護する事を目的とする
継承信託(Inheritance Trust):死亡後、子どもや孫、友人に資産を移転する事を目的とする
葬儀信託(Prepaid Funeral Trust):葬儀費用を支払うために設定する事を目的とする
慈善信託(Charitable Trust):慈善目的で資産の一部を慈善団体の運営をサポートする事を目的とする

-受託者としての責任-
受託者になる場合、信託証書および関連書類を読んで内容を理解することが必要。また、受託者を置き換える場合は、その人が適任かどうかを調べる必要がある。
・受益者のニーズや信託の投資を見直すために定期的に会合を開く
・信託をする意思決定の作成と記録、責任ある投資信託基金、信託がその法的義務を遵守することを保証する
・信託がその納税義務を満たすことを保証する、受益者の利益を公平にする事を念頭に置いて行動する
・適切なときに専門的アドバイスを受ける。受託者としての地位から個人的な利益は得られない
・受託者は、信託がローンを組む場合の文書は、独立した受託者または受託会社をこの負債から除外するが信託に起因するすべての債務について個人的責任を負う(投資した成果が悪い結果の場合など)。

家族信託 -FAMILY TRUST-
家族や家族全員の将来のために資産を保持して護る目的で「家族信託」を設立することができる。その後、資産は個人ではなく信託によって所有され、受益者(通常は家族)の受託者(例えば家族や会計士、または弁護士)によって管理される。家族信託は、資産を護る為に設立するので、税金対策のために設立する事はできない。

-資産内容―
収入を生む資産(会社の株式や投資、家族の家、現金、定期預金、絵画や骨董品など)を持っている場合、税金の支払いは家族信託(税率は33%)もしくは受益者が支払う。受益者の税率は、家族信託の税率より低いことが多く、いづれも収入の高い委託者の税率より低いことが多い。

※ ニュージーランド国内で所得が発生した場合、その範囲内で納税をする必要がある。トラスト内の資産は、委託者や受益者名義ではなく、受託者名義で保有・保管され、信託証書に基づいて設定されることとなる。また受託者は、信託証書に従って運用を行うことが義務付けられている(設立後最長80年間有効。ニュージーランドの相続税は無し。2018年3月15日付)。受託者は、信託された財産の所有権を持っている事になるが、その管理や処分などは受益者の利益のために行う義務がある

-特徴-
委託者がビジネスを運営している場合、債権者から請求などのリスクを負うが、家族信託で保有・保管されている資産は、法的には委託者の所有ではないので、債権者はその資産に対して請求をすることはできないのが一般的である。ただ、政府からの請求(例えば老人ホームの費用など)、離婚時の請求から資産を守ったり、幼い子どもや自分で判断できない家族のためにも資産を護ることができる。
・家族信託の受託者(Trustees)は、信託詔書(Trust Deed)に書いてある通りに運営を行い、資産の投資、管理などを責任を持って行わなければいけません。受託者は、全ての責任を負わなければならないので、重要な役割です。
-信託を設立する際の理由とメリット-
・特定の目的のためにお金を払うこと。子どもの結婚式や高等教育費の支払いのため
・財務を管理することができない家族の資産を管理するため
・ビジネス関連で予期せぬ財務上の問題から資産を保護するため
・将来的に居住介護が必要になる可能性を準備する
・死亡した後に資産がどのように使用されるかについて、何らかの制御を維持するため
-デメリット-
• 信託証書(Trust deed)を作成するための費用(弁護士費用や初期費用など)。
• 管理費用。トラストの内容や作業量などで費用が変更(会計士や弁護士、トラスティーサービス会社などに管理を委託するのが一般的)。
・資産を自分のものとして扱う事ができなくなる

信託を設定するほとんどの人は、信託に資産を「贈与」することで、債権を放棄するが、課税の対象となるなど個別で異なるため、専門家のアドバイスを受けることをお薦めする。

-内容例-
「パートナーのどちらかが先に死んだ場合または同時に死んだ場合の事」
「病気になった際、昏睡状態や自分では判断がつかなくなった場合の決定事項や署名は誰に委託するのか」
「幼い子どもが25歳になるまで資産管理してもらう」など

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トラストを管理する人の選定、管理や利益の受取り方法、資産は誰が引き継ぐのかなどを記載する(トラストに資産を移した後は簡単に取り戻すことはできないので要注意)

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資産を引き続き使用しながら、法的な所有権をトラストに移したことになるので、例えば、家をトラストに入れた場合に、信託証書に「引き続きこの家に家族で住む」と明記しておけば、その家に居住しながら、所有権のみを法的にAさんからトラストへ換えることが出来る。

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「遺言について」弁護士に聞く
家族への資産の分け方や葬儀の方法など、「個人の意思を明らかに」書き示す文書が遺言書である。遺言は、自筆証書と法的文書とに大別されるが、さらに「通常の遺言」と「信託遺言」とに区別される。

「通常遺言(Normal will)」
通常遺言は、相続人(受益者)に資産や財産がどのように配分されるべきか、任命した人物の指示に従うなどの記載をした文書の事を指す。遺言者が死亡して相続が発生すると、この任命された人物(Power of Appointment)は執行人(Executors)となり、遺言者に代わって法律文書に署名することができ、遺言者の意思に沿って財産を相続人(受益者)に配分する事ができる権利を持つ事になるので、重要である。通常は、配偶者や成人した子どもが執行人となるが、弁護士や会計士を選定する場合もある。

「遺言信託(Will Trust)」
信託の設立をした場合にも、遺言の作成をして「委託者が死亡した時の信託財産の使途や管理、処分方法、任命した人物(Power of Appointment)の指示に従うなど」明らかにしておく文書のことを指す。万一、委託者(被相続人)が死亡しても、受益者(相続人)は委託者になれないので、信託を設立したら遺言もセットで作成することをおすすめする。

※遺言の作成後は財産や家族の変更、結婚や出産、高齢になったなど状況の変化に応じて書き換える事も一般的である。
※ニュージーランドでは「結婚=事実婚(Marriage=Partnership=De factoなど)」の制度があり、定められた条件を満たすと、結婚と事実婚とは同等に扱われ、2人の財産は「共有財産」となる。離婚や別離になった場合に大きな問題となるため、家族信託や遺言などで資産の管理を事前に設定しておきたい。
※現在は、贈与税や相続税に関して無税だが、変更する場合もあるので確認が必要(2018年3月15日付)

参考:
http://www.ird.govt.nz/trusts-and-estates/
http://www.societies.govt.nz/
http://www.cab.org.nz/vat/money/bit/pages/familytrusts.aspx
https://www.sorted.org.nz/

この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.97(2018年4月号)」に掲載されたものです。

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