「春の風は、もうちょっと長生きできるんだぜ」
別の風が、ぼうやの隣に座り「俺は前に生まれたのは春だったんだ」と続けました。
「あら、私は前回は夏だったわ」
「僕は…、あれはいつだろう?秋になったな。冬の終わりもあったよ」
「あたしゃ、全部の季節を知ってるよ。名前のつかない季節も」
次々と集まってくる風の中で、一番のベテランらしいおばあちゃんが、
「あぁ、どうやら新入りらしいね」
とぼうやの頬を撫でると、風たちの視線が一斉に集まります。
「うん、そうなんだ。すぐに死んじゃうってことしか、知らないんだ」
震えるぼうやは、おばあちゃんの「怖いかい?」という優しい声に、黙って頷きました。
すると、風たちは順々にいたずらっぽく目配せをしたかと思うと、ぼうやの手を取り、みんなで大笑いして走り去ってゆきました。
強烈な冷たい突風に激しく手足を揺さぶられながら、私はかろうじて目を開けて見送ります。
足元では、積み重なった落ち葉の中に、「寒い寒い」とネズミの親子が潜り込んでいきました。
この記事は、ニュージーランドのビジネス系無料雑誌「KIWI TIME Vol.112(2019年7月号)」に掲載されたものです。