みなさんは、雨粒の声をご存じでしょうか?
それは、「未練はあるかい?」です。
台風でも、冬のしとしとと続く雨も、真夏の通り雨も、すべて。そう言って落ちてきます。
「何の後悔もなく、思い残すこともなく、生きるのは、無理でしょう?」と、私は返します。
「後悔は未練じゃない。思い残しは、未練じゃない」
ときに、そんなため息と微笑のぜを残して、雨粒は、土に飲み込まれていきます。
ある夏。
「久しぶりだな。未練はあるかい?」
その声の奥には、小さな期待が光っていました。
「あるような、ないような」
正直に答える私に、憐れむような口元で何かを言いかけて、雨粒は土に消えました。
夏、秋、冬、春と過ぎ、また夏。
「また会ったな。未練はあるかい?」
空高くに目を向けながら、雨粒はいつもと同じ質問をしました。
「あるけど、ない」
私はまた、正直に答えました。
「そうか、飲みな」
視線を空から私へと瞬時に移し、ニカッと笑って、雨粒は、私の根の中へと、グイッと入ってきました。
今までで、一番おいしかった雨粒のお話です。
この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.106(2019年1月号)」に掲載されたものです。