
「あかいほうが、いいんだって。あかいのより、もっとあかいのがいいんだって」
まだ白く透き通るような緑色で、どうしたって硬いプラムの子が、泣きそうになって呟いていました。
「どうしたの?」
サラサラと葉を鳴らして尋ねる私に、その子は、もう一度同じことを、さっきよりも大きな声で言いました。「さっき通りかかった黒い鳥が、言ってたんだ」と付け加えて。
その日からその子は、毎日、あかくなる方法を試していました。
朝一番に光を浴びるんだと言って、夜明け前から背伸びをしたり…。息を長く止めているといいんだと、プルプル震えながら辛抱したり…。
「大丈夫だよ。心配しないで待っていなさい」
私は、毎日、微笑みました。
それでもその子は、心配そうに涙をたっぷりためた瞳で、あかくなりたい全身全霊で、生きていました。
その子の周りには、いつも眠っている子もいたのです。ケンカばかりする子も、恥ずかしがり屋さんもいました。
みんな、同じようにあかくなっていきました。
みんな、違うあかいろになっていきました。
みんな、鳥に好かれました。
ただ、私は、プラムの季節、あの精一杯な子を、真っ先に思い出します。
この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.107(2019年2月号)」に掲載されたものです。