真実の悩み【第5回】

 

夜、寝る前に携帯電話を充電することを忘れていた。朝起きて慌ててベッドの横にあるコンセントに充電用のコードを差し込むと、聡の携帯に振動とともにメッセージが入ってきた。着信時間を見ると、夜中の十二時。初音からだった。

『今日のお昼に話しを聞いてくれてありがとう。そして私に話してくれてありがとう。私の話をするといつものように暗くなるけど、聡の正直な考えを聞いてから、何かふっきれた気分になれた。今度は聡の事も教えてね』

聡は、すぐに返信ができなかった。そんな簡単な気分で言ったのではないってどのように伝えれば良いのか。初音のために言ったのでなく、世間一般の人に対しての意見だから気にしないで下さい、では冷たい感じがする。昨日は一緒に時間を過ごせて嬉しかったし話しができて良かった、では一般的すぎる。文章にすると気持ちを伝えるのが難しい。

夜明けの静けさをかき消すように、窓の外から鳥のさえずりが聞こえてくる。ベッドルームからキッチンへと向かい、携帯を見ながら冷蔵庫にあるミルクを取り出した。窓から庭の様子を眺めると、芝生と木々がきれいに生い茂り、いつもと変わらない風景があった。そして遠くの空がどんよりと曇り、音を立てずに雨が降っていることに気づいた。

『今日は初めて会った時より少なめの雨ですね。会う度に心の雨がなくなれば良いのに』

いかにも意味深い内容で送ってみた。そして、あえて二つ目のテキストを五分後に送信する。

『今度ご飯でも食べにいきませんか』

小雨の中、太陽の日差しが少しずつ入ってきて明るくなってきた。初音は目覚まし時計をかける事はほとんどなく、いつも朝になると目が覚めてしまう。隣では聡が子どものような顔つきで口をあけながら寝ている。

「どうしたら良くなるのだろうか。お金があっても」

急に聡が寝言を言い、少しだけ目を開けている。

「考え方を変えるしかないよ」

寝言に返答をしてはいけないことを知っているのに、初音はあえて話してみた。

「どういう意味で言っているの」

起きだした聡が寝ぼけた様子で話しかけてきたので、初音は一瞬驚いた。冷静さを保つ為に長い髪を右手でかき分けながら、いかにも会話が始めから続いているかのように話した。

「ごめん、起こしちゃった。寝言を言っていたから。お金があっても生活に困らなくても落ち込んでいたら意味がないと思うの。

私、一人っ子だったから、小さい頃から優しい両親に何不自由なく育てられた。兄弟姉妹がいないからって寂しい想いはした事はなかった。だって両親や友達が守ってくれたから。周りの家庭より裕福で大きな家に住んで、高級車もあった。生活が安定していたから困った事がない。でも、やりたい事がないというか、恵まれた悩み事があって。それで生き甲斐がないということになって落ち込むことが増えた。金銭的に良いのに精神的にだめみたいな」

執筆:20 歳の時に過ごした北島タウランガの思い出が忘れられない京都出身。大阪と東京に移り住み、カナダでスキー、オーストラリアをオートバイで一周した後、NZの銀行で10年間仕事をしながら短編小説5話を執筆(キィウィの法則、初めての出会い、私の居場所、10枚のチケット、魔法の子育て)。夢は日本で本を出版すること。

この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.95(2018年2月号)」に掲載されたものです。

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