「新たな課題と夢」山口ゆき氏

オークランド市のブロンズベイとポンソンビーに店舗を構える「ラーメン宝」。ブロンズベイにあるガラス張りでカフェ風の1号店が、最初は間借りから始めたと知る人は、少ないかもしれない。店舗拡大、2店舗目開店、フードトラックでイベントに参加するなど、意欲的なオーナーの山口ゆき氏にお話を伺った。


山口氏が育ったのは、静岡県富士宮市。父親が運営する中華料理店「ほうちろう(Est.1978)」の常連客だったニュージーランド人と出会い、この国の地を踏むこととなる。

「彼の日本での滞在が終わって、母国へ帰国することになったんです。それで一緒にニュージーランドに、そして結婚しました。その頃は、この国でビジネスをするとは考えていなくて、いずれは父親の店、飲食店の後を継ぐだろうなという気持ちを持ちながら、日本に帰国しました」

日本に帰国後、車のパーツを輸出する会社を起業するも、車のことに関して得意ではなく、パッションも感じなくなったという。

「法律が変わり、車に関する仕事は、個人経営でする時期ではないと思ったのと、子供が小学校に通う時期になったので、環境のいいこの国で子供を育てたいと考えて、移住することを決意しました」

ニュージーランドに行って、自分に何ができるのかと考えた時に、「やっぱり飲食業だ」と思ったそうだ。高校の頃から父親の店で裏方の事務作業やホールを担当し、東京の大学在学中も飲食店のホール担当として働き、飲食業という分野にパッションを感じていたそうだ。

「環境のいい所に住まなければ、この国に来た意味がないと思って選んだ場所が、ブランズベイ(オークランド)でした。店舗を探す時も、オークランド中心地よりも、子供たちが学校帰りに立ち寄れる場所、そして近くに日本人が多く通う語学学校があったので、そこに着眼して、同じ地域で店を開くことを決めました。まずは、子供たちを養える収入があればいいという思いでした」


2007年3月3日、テイクアウェーのカレー店の一角を借りてスタートさせたという。

「当時は、店舗を借りるほどの資金力が無くて、仮に店舗を借りても1人では大変だと考えていたら、カレー店を運営するオーナーご夫妻から、この店舗の半分を間借りして、そこからスタートしてみたらと提案してくださったんです。ランドロードにも承諾をもらって、開店。入口が1つ、キッチンは共有で使用するという、かなりコンパクトな規模でのスタートでした。店内外を合わせて12席の規模で、カレーを食べる方とラーメンを食べる方とが隣り合わせで座り、お客さまにはフードコートのような感じですとお伝えしていました。カレー店の常連の方がから揚げを注文されたり、少しずつ新規のお客さまが増えていきました」

左右の店舗を借りて、拡大

開店から約4年過ぎた頃の2011年、カレー店のオーナーご夫妻が豪州に住むことになり、半分の店舗を丸ごと借りないかとの提案で借りることになり、店舗を拡大(現店舗の左部分)。改装と同時に、刺身やタパス系の居酒屋メニューも追加した。

「しばらくして、右隣の床屋さんが母国に帰ることになり、その店舗を借りることになりました。細長い店舗で今の店舗とは繋がっていなかったので、壁に穴を開けて店舗を繋げたいとランドロードに尋ねました。きちんとコンセプトを持ってくれるなら、いいよという承諾をもらい、現在の店舗の大きさになりました」

入り口から入ると、この細長い部分は、個室のような空間になっている。さらに、韓国の食材店だった店舗を借りることになり(現店舗の後ろ部分)、現在はその部分をセントラルキッチンとして使用しているそうだ。左右と後ろ部分のまったく違う店舗が1つの店舗にまで拡大されたということである。

セントラルキッチンを設ける同じタイミングで、2店舗目の場所を探していた山口氏。オークランド中心地の立地に詳しくない山口氏に変わり、スタッフ達が候補を挙げ、何店舗か見ている中で決めたのが、現在の2店舗目がある、ポンソンビー(オークランド)だという。


クリエイティブな業種の人々が好む街、ポンソンビー。そのメーンの通り沿いに店を構えているのが、2店舗目となるラーメン宝。間口が狭く、入り口のドアを開けて入ると細長い造りの店内で、さらに奥に進むと、テラス席がある、うなぎの寝床と呼ばれる店舗。

「最初に見た時、立地はいいけど、キッチンが狭いから、どうかなと思ったんです。店舗を拡大しても、同じ味を維持したいという課題がありましたから。でも、セントラルキッチンで、麺や餃子の皮、ソース系を作って運べば、どうにかできるんじゃないかと思って、決めました」

「2店舗目を探す時、ブランズベイの営業をしながらだったので、オペレーションをするのがやっとでした。各店舗のスタッフの力がなかったら、開店できていなかったと思います。内装や新スタッフ募集、サプライヤーさんとの相談など、私がやりたいと考えている事に共感してくれて、それを進めてくれる頼りになるスタッフ達がいたから、今に繋がっているんだと思います」

2店舗目の営業を始めて3年。大変だったけど、スタッフの力があるから、出来なくはないんだという事が判ってきたという。


もう1つのキッチン、フードトラック

各種イベントにフードトラックで参加している「ラーメン宝」。2店舗の営業とフードトラックでの営業はスタッフ集めや仕込みの量も大変。3店舗目ではなく、なぜトラックなのかを尋ねてみた。

「フードトラックの購入を考えたきっかけは、私の父親ですね。父が65歳の時、正式に日本の店を閉めて、この国で一緒に住むことになったんです。それまでは、年に1回、オークランドで開催されている日本のお祭り「ジャパンデー」に出店する度に、日本から手伝いに来ていました。トラックが無い頃は、大鍋やテーブルを運んで設営していたので、結構大変でした。麺を茹でるための水やスープを運んだり、店舗とは違う体力勝負が必要。毎年そんな感じでしたが、お店自体も大きくなって、人手が必要な時期だったので、父に店舗で一緒に働いてもらうことを考えました。ですが『ここはお前のキッチンだから、お前のやりたいようにやればいい。気になったことは、口を出すかもしれないけど』と言われました。

40年以上も仕事一筋だった父に、日本とは違うこの国で楽しみながら、移動しながら調理も可能な、フードトラックのキッチンを父に任せようと思ったんです。この考えはすごくいい方向に進んで、今ではスタッフと一緒にチームになって、いろいろなイベントに出向いています。イベントはイレギュラーですから、いつもの仕事と違うけど、スタッフ自身も楽しんでくれていると思っています」

当初は、トラックを購入するもイベントにコネクションがなく、出店さえできなかった時期もあったという。今では、ウェリントンやオークランドで開催されるナイトヌードルマーケット、日本祭りのジャパンデー(オークランド)、年末に開催されるギズボーンの音楽イベント、オークランドに店舗を構えるビアスポット(thebeerspot.co.nz)と提携して各店舗に出店するなど各イベント毎にチームを結成し、フードトラックはフル稼働しているそうだ。


山口氏は、開店から今日まで、スタッフや顧客の声を参考にして色々な事を変更してきたという。例えば、定休日。開店当初は日曜日を定休にし、開けてほしいという声があってからはスクールホリデー期間中のみ日曜日を開店、スタッフが増えてきた時期には7Daysに、そして現在は月曜日を定休にしている。

「休むことで売り上げは落ちるけど、スタッフ同士の交流ができるように、月曜日を定休にしました。時々バーベキューしたり、パーティしたり。その時にスタッフ同士で色々なアイディアも出てくるし、定休にして上手く動いたというか、よかったと思っています。

私自身が働く環境を大事にしている方で、最初は子供たちが食べていければいいと考えていましたが、ここまでこれたのは、スタッフの力があったからなんですね。

緻密な計画を立てることが上手な方ではなくて、開店1、2年目は必死で仕事をしていました。少し余裕が出てきた時に店舗拡大のお話がポンポンポンときて、自分がつけてきた力に、少しづつ無理することなく、スタッフも増やすことができて、全部がいいタイミングで、進めたと思っています」

ランドロードの承諾はもちろんだが、改装工事を行うビルダー、水道や電気業者、デザインを考えるスタッフなどが最初の改装時から同じメンバーで携わり、山口氏の「こんな風に」という言葉を実際に形にしてくれたという。

自分の子供に時間を割けてあげられなかったことに関しては、「寂しい思いをさせたかなと思いますが、私自身もそうであったように、私の父がいつも働いていて、忙しいながらにも、お弁当を作ってくれたりしました。私自身もそういう姿を子供に見せられたかな」と話してくれた。2人のお子さんはすぐ近くの学校から店に寄り、宿題をしたり学校での出来事を話したりして、自宅に帰っていたそうだ。常にここにいなければいけないという環境の中、少しでも子供たちとの時間を持ちたいと考えていたそうだ。


店舗を拡大した時に居酒屋メニューを追加するも、しばらくして「ラーメン屋さんなんだ」ラーメン店にしか出来ない部分に、特化していこうと考え方が変わったそうだ。刺身や照り焼きチキンなどのメニューを外し、需要が多いベジタリアンやビーガン、グルテンフリー向けのメニューをラーメンでも出来るんじゃないかと考え、色々な食材で挑戦しているという。


「キッチンは大変ですよ。アレルギーに対しての知識もスタッフ教育として取り入れています。2店舗目のポンソンビー店ではベジタリアンやビーガンのお客さまが多かったので、いろいろな食材を試してチャレンジというか、これでもいけるんじゃないかとか、楽しんで新メニューを作っています。当時は各店舗で違うメニューを提供していましたが、最近では統一化するようにしました。今ではどの店舗でも、こんにゃく麺やライス麺など、アレルギー向けのメニューなども食べられるようにしています。新しい試みも常にしていて、最近では世界一辛いラーメンというか、チリを練りこんだ麺を作ったりしています。

やっぱり、人なんですよね。

パッションを持ってやってくれているスタッフ達なので、次の段階というか、私が手掛けるというよりも、彼らのアイディアで、いろんなエッセンスを入れた、違う何かが出来たらいいなと思っています。私の店だけで修めてしまうのは、もったいない位、情熱を持っているので、彼らの情熱をサポートできたらいいなと思っています」

スタッフが情熱を持ち、色々なアイディアをだしてくるというのは、これまでにもスタッフのやりたい事、変更するべき所などを山口氏が形にしてきたからだと思う。

今後は、自分自身が動くのではなく、一歩引いたところで、全体を見れるような立場になり、スタッフのみんなをサポートしていくのが、新たな課題ですと、締めくくってくれた。


YUKI YAMAGUCHI

Ramen TAKARA

Web: http://ramentakara.co.nz|facebook: https://www.facebook.com/takaraponsonby

Browns Bay|4 Anzac Rd., Browns Bay, Auckland|09-476-6041|11:30~15:00、17:00~21:30(定休:月曜日)

Ponsonby|272 Ponsonby Rd., Ponsonby, Auckland|09-360-6111|12:30~21:30(定休:月曜日)

最新情報をチェックしよう!
>雑誌「KIWI TIME」について

雑誌「KIWI TIME」について

2010年創刊。雑誌「KIWI TIME(キウィタイム)」は、K&J MEDIAが毎月発行するビジネス系無料雑誌です。ビジネスに関する情報やインタビュー、仕事の息抜きに読みたくなるコラムが満際です。

ニュージーランドで起業している方や起業をしようと考えている方を応援します。

CTR IMG