「選択肢がなかったからこそ」五十嵐 隆氏

2014年10月、ニュージーランドに「ビアードパパの作りたて工房」1号店がオープンした。同店は株式会社麦の穂(本社:大阪府大阪市)のフランチャイズの店。場所選びから店舗拡大に至るまでの話を、フランチャイズオーナーの五十嵐氏に伺った。

早期退職制度を利用

日本の広告会社で勤務していた五十嵐氏。退職してニュージーランドに行こうと決めたのには、2つの要因があったという。

「1つの要因は、妻の家族がニュージーランドに永住してビジネスをしていたからですね。以前から一緒にビジネスしようよって言われていたんです。でも当時は仕事が面白かったし、やりがいもあったので、定年したら行くよという話しをしていました。家族からは日本からの移民希望者も増えているし、例年ビザの取得が厳しくなっている、歳をとってから来ても永住権も取れないよ、早い時期に来たほうがいいって助言をもらったんです。もう1つは、ちょうどその頃に、早期退職制度の募集があったんです。それで気持ちが固まりました」

タイミングが重なった。残りのサラリーマンとしての給料やさまざまなリスクの事を考えたが、何かビジネスをやろうと決めたそうだ。

場所を決めてから、事業内容を決定

まず最初に場所をハミルトンに決めるも、その時は未だ、何のビジネスをするのか事業内容を決めていなかったという。

「選択肢が無かったんです。英語もろくに出来ないし、年齢的にも雇用してもらうのは難しいし、投資ビザを申請できるほどお金も無い。なので起業家ビザで申請するしか方法が無かったんです。なので少しでも申請ポイントが高くなるようオークランド以外のエリアで始めようと思ってました。また、何店舗か出店しようと考えた時、オークランドやウェリントン、クライストチャーチははある程度採算ベースを想像出来るものの、人口が4番目の都市になるハミルトンが「ベンチマーク」にもなる。もしハミルトンで事業が失敗したら、それ以外の小さな街に出店した時にどうなるのかテストもしやすく、判断基準ができると考えたんです。もともとオークランドにも店舗を出店すると考えていたので、オークランドからも比較的近いというのも利点でした」

日本で勤務していた広告会社で、大手チェーン店の仕事も担当、同時に出店戦略やマーケティングの考え方などの経験を得た事が、自分で店舗を出店するという部分に役だったのだろう。ビジネスをする場所(都市)を決めた後、最初は違う事業、家庭用品販売の大型店をオープンしようと考えて動いていた五十嵐氏。しかし隣国オーストラリアで、出店拡大をしているから、4、5年待ってくれと言われたそうだ。

「4年も5年も待てないから、じゃあ次に何をしようかと調べたんです。そしてニュージーランドに市場調査を兼ねて、季節違いで3回ほど訪れました。当時、ニュージーランドはアイスクリームの個人消費量が世界で1位だったんです。年間で29kg位食べているそうで、2位の米国は23kg、日本は6kgでした。そしてちょうどその頃、フローズンヨーグルトの店が急激に拡がっていたんです。それも乳製品だったから、乳製品スイーツなら需要があるんじゃないかと思ったんです。それと、ビアードパパさんが海外進出に力を入れていると聞いたので、この事業にしようと決めました」

マスターをとる

「フランチャイズだから、成功すると思ったらすぐに真似されて出店されてしまう、『だから、ニュージーランド全土におけるマスターを取るべき』という家族からの助言があって、マスターフランチャイズの権利を取得したんです。何店舗か出店しなければいけないという契約条件もあったので、2014年10月に1号店をオープン、その1年後にオークランドのショッピングモールWestfield St Lukesのフードコート内、そしてオークランドのメーンストリートQueen Streetで大学に近い場所に、続けて3店舗を出店しました」

マスターフランチャイズになると、サブフランチャイズを持つ事ができるそうだ。つまり、誰かがビアードパパの店舗をニュージーランド国内で出店したい場合、必ず五十嵐氏に連絡をし、サブフランチャイズに加盟しなければいないという仕組みになる。一度にサブフランチャイズを含めた複数店舗展開をする事もできるが、ニュージーランドでの立地条件や運営管理などを検討しつつ、テストも含めながら運営を行っているという。

苦労した事は「言葉」と「ルーズ差」

「圧倒的に、言葉で苦労しました。こんなにすぐにニュージーランドへ来るとは思っていなかったので、英会話の勉強を全くしていませんでした。それとルーズ差。店舗工事を行う際、日本では例えば私がやっていた広告の仕事などでは、納期を守れないと出入り禁止になってしまいますし、賠償金などかなりの痛手があります。この国全体に当てはまらないと思いますが、契約書に引き渡し時期を書いてもらえなかったんです。時期を書いてしまうと責任が出てくるからって。工事全般を一任してコーディネートをお願いしていた会社からも、業者がやらないから遅くなると連絡があり、人任せの部分がありました。そこをマネジメントするのが仕事じゃないのかと、物事が進まない事に、苦労しました」

また黄色と白、青色を使用した装飾が店舗のイメージだが、Westfield St Lukesの店舗では、飲食店の装飾を統一。木目調を使用するように資材の指示もあり、ブランドイメージを壊さないよう気を配りつつ、一部に木目を使用せざるを得なかったという。

ビジネスの1つとして

早期退職してから開店する迄に1年ほど準備期間があり、その期間を利用して奥さまはパンの学校、五十嵐氏はケーキの学校に通ったという。大型オーブンなどの機材を購入するので、もしビアードパパで失敗しても、それらの投資を無駄にはしたくないという思いで、カフェやベーカリー開業も視野に入れて基礎を学んだそうだ。

「僕はパティシェではないんです。ビジネスの1つとして、この事業に決めました。この味とフランチャイズのノウハウで、この国で成功できる、成功させてやると思っています。フランチャイズに加盟した後は毎月ロイヤリティーを支払い、メニューも日本にある本部が作っているレシピで作ります。年2回程度は本部から担当者が訪問して、きちんと掃除されているか、スタッフのトレーニングができているか、営業や新商品開発などの指導があります。新メニューを作る時は最初に試作して、本部と話しながら進めます。ニュージーランド独自のレシピを作る時も、事前に試作して許可してもらいます。日本で食べる味と同じ味を提供できるよう保っているのは、本部からの指導とサポートがあるから出来ていると思っています」

黄色い看板とおじいさんでおなじみのビアードパパ。注文してからクリームを詰めていくのは、日本と同じ実演販売で、待っている間にも食欲を増進させてくれる。いつも出来立て、作りたてでフレッシュなシュークリームを安心して食べる事ができるが、その背景には、オーナーと本部との繋がりがしっかりと結ばれているからだと、改めて認識。

店舗を拡大していく

「飲食をミール系とスイーツ系で考えると、スイーツ系は少し需要が減るんですよね。毎食食べるものではないから、成功させるためには、立地が重要だと思っています。実際に、Westfield St Lukes内の店舗(約12㎡)よりオークランド中心地の店舗(40㎡)の店舗料金が安いんです。それと最初にハミルトン店を出店し、1年後にオークランドに出店した時の両店を合計した売上げは上がりましたが、ハミルトン店だけの売上げをみるとガクッと下がったんです。お客さまが2ヶ所に分かれたんです。つまり、これまでオークランドからハミルトンに多くのお客様が買いにきて下さっていたんだと、改めて思いました。嬉しかったですね」

五十嵐氏は、これまでの経験を活かしながら、多店舗拡大のために場所を探し続けている。

五十嵐隆:Wellmart International Trade代表。ハミルトン在住。趣味は映画鑑賞、読書。

http://www.beardpapa.co.nz/

https://www.muginoho.com/

この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.108(2019年3月号)」に掲載されたものです。

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