「働く側から経営する側へ」朴木 充一朗氏

ケータリングサービスを主力事業として始められた「Ariake Five (NZ) 」。現在は、デイリーや食材店にお弁当や惣菜を届けるデリバリーサービス、そしてレストラン事業の「Masa Japanese Restaurant & Bar 」を運営している。約5年でここまで進めてきた経緯について、パートナーシップの1人、朴木充一朗氏に話しを伺った。

働く側から経営する側へ

多くの「ケータリングサービス」は、イベントやファンクションなどの会場で料理を提供するイメージがあるが、同社は私立学校のAIC(Auckland International College)の寮の食事作りを行っている。これまでも同校の寮の食事は外部に委託されており、前オーナーが会社設立と同時に委託契約を交わし、寮の食事を担う仕事を事業としてスタートさせ、現在もなお続けられている。

「会社を起業したわけではなくて、Ariake Five (NZ) という会社名とケータリングサービス事業も一緒に引き継いだ形になります。

前オーナーと僕たち夫婦は、オークランドの日本料理店で一緒に働いていたことがあって、その流れで、最初は妻が働き始めて、続いて僕も働くようになりました。もちろん、お給料をいただく働く側として、です。2010年に起業されてから3年程過ぎた頃に、前オーナーが大病されたこともあって、その際にこのビジネスを引き継ぎました。引き継ぐことに積極的だったのは、僕ではなくて妻の方だったんです。このビジネスを残したい、経営側にまわって運営していきたいという意向が強くて。それで前オーナーに確認しました」

2014年1月、正式に代表となった朴木氏と奥さまの鮎美さん。夫婦からビジネスパートナーとして再スタートすることになる。

経験ゼロからスタート

私立学校AICの寮(AIC Boarding House)には、Year 9-13の学生たちが学びと生活を一緒にしており、国際色も豊か。卒業生にはハーバード大学やオックスフォード大学、スタンフォード大学などへの進学、国際バカロレアコースを中心に行われている私立の学校である。同校とのケータリングサービスの委託契約は1年毎に交わされ、学生からのアンケートや寮の担当者と打ち合わせを行いながらメニューを決めているという。

「食べ盛りの年代なので、メニューには気を使っています。栄養面もそうですが、好き嫌いやアレルギーを抱えている学生さんもいるので、食材や調理方法にも気をつけています。宗教やアレルギーなどを把握して、さらにベジタリアン向けのメニューなども作っています。夕食は、親元から離れている学生さんたちの国籍に合せて、ベトナムデーやジャパンデーのようにして、何種類かのメニューを作るようにしています。ボリュームや味にも満足いくようにしたいけど、好みもあるから、残されたものが何かとか気になりますね。目の前で顔と顔を合わせるので、おいしそうに食べてもらえると、嬉しいですね。

経営の経験ゼロなので、経営する側のやり方が判らなくて戸惑うことが多いです。働いている時には、どちらかというと言われた事をこなす感じでしたが、今は、目の前のことを、1つずつ進めています。妻はシェフなので、作ることを主に行って、僕はそれ以外のことを担当するという形に自然となりました」

3食の食事を作るのは、シフトやメニュー構成だけでも大変な作業だ。メニュー表を見てみると、朝はシリアルやトースト、フルーツやヨーグルトなどの他にお粥などをプラス。昼はロコモコやカレー、タコライスなどの他にベジタリアン用のメニュー、夜はオデンや牛丼、親子丼やチキンフォー、ラザニアやローストポークなどのメーンにサイドディッシュ、ライスやヌードル、デザートやフルーツ、時にはデザートオブザデーやBBQなど、朝早くから休む暇もないのではないかと尋ねてみた。

「そうですね、途中で休憩をとりますが、7days、朝昼晩、作ってから片付けまでです。でも、学生さんたちが夏の長期休暇に入ると、ケータリングの食事作りもお休みになるので、キッチンのメンテナンスをしたり自分たちも休暇を取ったりしています。他の会社に比べると、長い休暇を取れていると思います」

1本の幹から枝が伸びていく

同年の2014年、朴木氏たちはケータリングサービスの事業と並行して、外売り、デリバリーサービスを始めた。このサービスを始めるきっかけを作ってくれたのは、前オーナーだという。

「もう一つの柱を作りたいと考えて、前オーナーがオーガニックの商品を扱う専門店のHuckleberry  (www.huckleberry.co.nz)に寿司やサラダなどの商品を置かせてもらえるよう働きかけていました。各店舗によって品数は違うけど、焼き菓子やグルテンフリー、ビーガンやアレルギーの方向けの商品などを置かせてもらっています。その他にもCeres Organics (https://ceres.co.nz) やオークランド中心地のコンビニエンスストア、大学のアコモデーション横のコンビニエンスストアなどにお弁当を置かせてもらっています」

驚くことに、朴木氏たちの会社として所有するキッチンスペースも事務所も無いそうだ。ケータリングはもちろんだが、学校とは全く関係のないデリバリー商品を作るのも、契約先である寮(AIC Boarding House)のキッチンを使わせてもらっているという。もちろん詳細な契約のもと、承認をもらってのことである。この恵まれた環境で朴木氏たちは違う場所を探さずにして、事業内容を2つに増やすことに成功した。

レストラン事業を開始

さらなる挑戦。朴木氏たちは、デリバリーサービスは、柱にするには未だ利益率が低いので、新しいビジネスを母体に付け加えたいと考え、幾つかのレストラン物件を探し始めたそうだ。まもなくして、知人から「レストランオーナーから売りたいて聞いたよ」と言われ、早速そのレストランに直接尋ねに行ったそうだ。その店舗は高級住宅街で知られる地域のコヒマラマ(オークランド市)にある、現店舗名でもある「Masa Japanese Restaurant & Bar」である。

「オーナーが日本に帰ることを考えていたそうで、契約の話が進み、最終的にはお金の話ですが、どうにか支払える金額で折り合いがつきました。2018年4月、正式にオーナー変更、営業を開始することができました。

レストランの運営も初めてのことだったので、今も大変です。他のレストランさんでもされている事ですが、メニューにミニサイズで変化を持たせるとかスペシャルメニューを定期的に変更していくとか、運営側としてどういう風に提供したら喜ばれるのかという事が判らなくて、お客さまからの助言をお聞きしながら、少しづつですが改善しています」

朝から寮の朝食を作り、レストランに移動してキッチンとサービスの両面を担当する鮎美さん。同様に寮の朝食を作り、外売り用の商品をデリバリーし、専門的な調理はできないからと、レストランではサービスを担当している朴木氏。

「僕はどちらかというと、裏方の存在です」と朴木氏はいう。鮎美さんがキッチンと主軸で判断を下すような存在となり大きく全体を見て改善点を見つける、そして朴木氏が改善する。2人の役割分担が上手くまわっているからこそ、経営者側になって約5年で3つの柱を作ることができたのだと思う。

「僕の課題は、レストラン事業を安定させるように、できるだけお客さまを増やすことと、学生さんやお客さまがハッピーになっていただけるようにすることです、頑張ります」と笑顔で話を締めくくった。

朴木充一朗 |JUICHIRO HONOKI |Director of Partnerships, Ariake Five (NZ) Limited and Masa Japanese Restaurant & Bar

158 Allum St, Kohimarama, Auckland 1071|09-528 7924|FaceBook: Masa Japanese Restaurant and Bar

この記事は、ニュージーランドのビジネス系無料雑誌「KIWI TIME Vol.113(2019年8月号)」に掲載されたものです。

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