「ニュージーランドで純米酒を醸す」David Joll氏

David Joll氏(杜氏、共同創業者|全黒、NEW ZEALAND SAKE BREWERS LIMITED)


2015年8月、ニュージーランド初となる酒蔵で日本酒造りが始まった。南島の南アルプス山脈の絶景が広がる街、クイーンズタウンにその酒蔵「全黒」はある。酒蔵の杜氏を務める共同創業者の1人、デイビッド・ジョール氏に創業から今日に至るまでの経緯を伺った。


「最初は、自宅のガレージでどぶろくを造っていました。」と話すデイビット氏。

共同創業者は4人。クレイグ、リチャード、ヨシ、そしてデイビッド。高校から日本語を勉強していたクレイグ、日本に長期滞在していたリチャード、17歳の頃に交換留学生として来日、合算で15年間日本に滞在していたデイビッド。彼ら3人が30歳の頃から、NZで日本人向けの山岳ガイドを行っていた。同時期に著書「Hiking In Japan(Lonely Planet社)」の出版に携わるなど、3人の関係と日本への思いは28年以上の長きに亘って続いている。そしてクライストチャーチと日本を往来する唯一の日本人、ヨシ。滞在地でもあるクライストチャーチに酒蔵を作る予定であったが、2011年にカンタベリー地方で発生した地震の影響で頓挫。その後の2013年、カナダの酒蔵「YK3」の共同創業者の1人となる。デイビット氏が日本に滞在していた頃からの友人でもある。

「日本に滞在していた時に日本酒を味わって、歴史も勉強して、日本酒が好きになりました。そしてNZで日本酒のことをもっと伝えたい、NZには酒蔵がないから、ビジネスチャンスだと考えていました。50歳を過ぎた頃、その思いは自分の人生のプロジェクトとして、やっぱり挑戦したいという考えになりました。そこで日本からの友人、ヨシさんに相談し、酒造りを学ぶことになったんです」

日本人の奥さまにも相談し、山岳ガイドに区切りをつけ、日本の茨城「吉久保酒造(https://www.ippin.co.jp/)」とカナダの酒蔵「YK3(http://www.yk3sake.com/)」で、蔵人として酒造りに従事することができたそうだ。約1月半後、デイビット氏はNZへ帰国、ついにNZでの酒造りが始まった。

日本の酒、日本の文化が大好き、そして酒作りに対する熱意を持った同志たちが集まり、共同で会社を設立。酒タンクなどの専門部分は業者に頼むも、それ以外の部分、内装などは自分たちで作業を行ったという。現在の酒蔵「全黒」で販売できる酒が完成したのは、2015年12月のことである。

2016年の始めにジョンゴートナー先生の日本酒教育委員会の認定試験を受け、日本酒プロフェッショナルの資格を修得し、翌年2017年には上級日本酒プロフェッショナルの資格も修得した。


自分で消費するビールやワインなどのアルコール類を作ることが許されている国、ニュージーランド。

幸いにも醸造酒用の器具などは多種あり、酒蔵には、それらを代用したという。しかし清酒を造るための酒米や精米機、酵母などを手に入れるまでは、容易では無かったそうだ。

「現在は日本の酒米を輸入して使っていますが、最初は輸入するのが困難で、カリフォルニア産の酒米を使用していました。パンの発酵に使う酵母や日本のスーパーで売られているような麹を使用したりと、何度も試行錯誤を繰り返しました」

日本酒を造る為の、良い水と環境が整っているクイーンズタウン。

1日に四季があるといわれるように夏の時期でも朝晩は涼しいため、酒蔵の温度設定が年間を通して維持しやすいそうだ。

最近では、日本の地酒造りでも完全機械化された製法で造るところも多い中、「全黒」では昔ながらの手法で、ほぼすべての作業を手造りで行っている。そして造った原酒の全てをすぐに瓶詰めするのではく、少しづつ調和させて完成させるという。もろみを木綿の袋に入れて木の棒に吊るし、自然にしたたり流れる「雫搾り(しずくしぼり)」、もろみを袋に入れて自分でデザインして特注で地元で作ってもらったステンレス製の入れ物、槽(ふね)に積み重ね上から石で圧力を掛けて搾る「槽搾り(ふなしぼり)」などの手作業で搾られ、丁寧に火入れをしたものを瓶に詰めているそうだ。その分、生産量が少なくなるが、季節にこだわらず、年間を通して造ることができるので、いつでも新鮮な味わいの酒を提供できるから、とデイビット氏はいう。 


「全黒」の酒は、遠く離れた国、英国でも認められている。

2016年、ロンドンで開催されている酒の品評会「ロンドン酒チャレンジ2016」において「雫絞り純米酒」が金賞、「にごり酒」が銀賞を受賞。2018年は「純米吟醸」が銀賞を受賞、昨年の2019年は「プラム酒」が金賞、「特別純米酒」が銀賞を受賞した。日本各地の酒蔵も選ばれている中、堂々の受賞である。

2018年12月、「全黒」の日本初上陸を記念して、ニュージーランドの食材や調理法、フードカルチャーにこだわったニュージーランド料理とのペアリングイベントが、東京都千代田区丸の内にある「ZEALANDER」で開催された。

昨年2019年に東京で開催された「ラグビーワールドカップ2019」にあわせ「ラグビーワールドカップスペシャル」のネーミングで日本での販売を開始。同酒は、神奈川「熊澤酒造(https://www.kumazawa.jp/)」と福岡「寒北斗酒造(http://kanhokuto.com/)」、そして「全黒」の3酒蔵コラボで実施された。

「ラグビーボール型のデザインのラベルを貼って販売しました。『全黒』の歴史は数年、日本の酒蔵のように50年、100年の歴史があるわけではないので、協力してくださった熊澤酒造さんと寒北斗酒造さんには感謝の気持ちで一杯です。現在は、NZとロンドン、そして日本で販売できるようになりました。NZ国内のレストランでも飲んでいただくことができます。和食はもちろん、西洋やNZの郷土料理など幅広い料理にあわせやすい、食中酒として飲める酒だと思っています。最近では、レストランのためにオーダーメードで酒を作ることもあります。雫搾りか槽搾りか、火入れをいつするのか、2回火入れをするのか。もろみは同じだけど、搾り方で味が変わるから、相談しながら、少しづつ調整しています」


今後の展開について聞いてみた。

「永遠の課題ですが、勉強を続けて、安定した酒を提供できるようにしたいと思っています。そして、蔵の横を増築して、セラードア(試飲直売所)もできるレストランを作りたいと思っています。醸造の勉強をしている学生さんたちや蔵見学をする人が増えてきたので、日本酒の文化をもっと伝えて、広めていきたいです」

デイビッド氏は日本人ではないが、日本人以上に酒や文化への思いを持っている人だ。数年後には、NZの多くの人々が普通に酒を注文したり買ったりして飲んでいるかもしれないな、と感じた。

David Joll

杜氏、共同創業者|全黒、NEW ZEALAND SAKE BREWERS LIMITED

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この記事は、ニュージーランドのビジネス系無料雑誌「KIWI TIME Vol.120(2020年4月号)」e-book版に掲載されたものです。

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