怖れを克服するために

ALISHA ELLIOTT
Student, IPU NZ Tertiary Institute

2019年度「JSANZ高等教育日本語スピーチコンテスト」で優勝した、IPUNZで日本語を専攻するアリーシャ・エリオットさんに参加に至る経緯や、今後の夢について聞きました。
*インタビューは日本語と英語のミックスで行われました。

日本国外における日本語スピーチコンテストというと、日本文化や日本での体験について話すことが多いように思いますが、アリーシャさんは「怖れを克服する」という、自身に向かい合ったテーマで話されました。

「私は、小さい頃からとても内気な性格で、人前で何かを発表したり、話すことに恐怖を感じていました。特にカンタべリー震災後、私の家族はクライストチャーチから引っ越さざるを得なくなって、さまざまな場所を転々としました。引っ越すごとに違う学校に通学することになり、新しいクラスに転入しますが、元々人見知xりな私にとっては、友達関係ができあがってしまっているクラスメートの中に入り込んでいくのは、とても勇気のいることで、私の「怖れ」の気持ちは、この頃ますます大きくなっていきました。
 高校に入ってからの、人前でのプレゼンテーションは避けることのできないものでした。あるプレゼンテーションで、私は緊張のあまり一言も発することができず、涙を見せてしまいました。そのことが、このままではいけない、この「怖れ」を克服しなければならないと、私を決意させました」

そのことと日本語を学ぶということは、どう関連しているのでしょうか?

「怖れを克服するといっても、何から始めたらよいのだろう?と自問自答したところ、4歳から続けている空手のことを思い出したのです。空手は長年続けたことにより、普段稽古を行う道場では、型を人前で披露することはできるようになっていました。ただ、披露する相手は長年見知ったメンバーなので、大会などの大舞台では、やはり緊張から、普段通りに行えなかったのです。
 しかし、決まった環境で長く続けることで、次第に慣れてくる、そしてそれが怖れの克服に繋がっている、というのはなんとなく自分でも分かっていたように思います。高校で第二外国語を選択するにあたり、空手で耳にしていたわずかな日本語に親近感を感じ–といっても「ハジメ」とか「クミテ」のようなものですが、日本語を選択することにしました。クラスでは発言の機会も多く、日本語をクラスメートの前で話すことにも、少しずつですが慣れていきました」

最近では、日本語を学ぶニュージーランド人は、マンガ・アニメなどの日本のポップカルチャーをきっかけに日本語に興味を持つケースが多いようですが、空手からというのは、今では少し珍しいですね。

「でも日本のドラマは好きですよ。ドラマを通じて現代の日本人や日本の生活を学ぶことができました。自分自身の日本語力を向上させることもできましたし。面白かったドラマとしては…特に記憶に残っているのは『家売るオンナ』ですね」


IPUではNZと日本の2カ国で
日本語を学ぶことができる

アリーシャさんは、日本語学習を大学レベルで継続するにあたって、IPUNZ Tertiary Instituteを選ばれました。

「IPUが日本と密接に繋がっていて、日本での研修プログラムが充実している教育機関であると知ったからです。たくさんのキウイ卒業生が日本で働いていることも聞いていました。何よりも自分に向いていると思ったのは、少人数でクラスが行われていることです。クラスメートと顔なじみになるに連れて、リラックスできるようになりましたし、本来勉強すること自体は好きなので、とても楽しくクラスに出席できています。人前で話す機会もたくさんありますし、グループプロジェクトもあり、私の「怖れ」を克服するための最適な環境です」

IPUの交換留学生として日本で学ばれたのですよね。

「交換留学制度を知り、自分にさらなるチャレンジを課すために応募しました。岡山県にあるIPU環太平洋大学での半年間では、日本語のクラスや異文化コミュニケーションのクラスなどに出席するかたわら、英語のクラスでティーチングアシスタントを務めました。クラス時間外には、ダンスや空手のサークル活動に参加しました。キャンパス外の活動としては、地元の小中学校でニュージーランド文化について話しましたが、子供達との交流は楽しかったですね」


夢は日本で教えること

IPU卒業後の次のステップについてお聞かせください。

「まず学生ローンを返すために、1年間NZで働いてから、日本に渡って、英語教師になりたいと考えています。ただ英語を教えるだけでなく、私がいかに「怖れ」と向き合ってきたかも伝えていきたいと考えています。私が経験してきたことや、思いを感じている子供は日本にも少なからずいると思います。チャンスはたくさんあるのに、怖がって一歩を踏み出せない生徒に、ちょっとだけ勇気を出してトライして、と。
 NZではホテルで働いてみたいと思っています。レセプショニストとかであれば、お客さまとお話しする機会も多いと思いますし。ただ、もし実家近くのホテルで働くとなると、日本人観光客がほとんどいない地域なので、それが残念ですが…」

アリーシャさんが学ぶ日本語クラスの担当として、スピーチ指導にあたったIPU NZの力丸真耶氏は「コンテストに際しては詩や音読の本を活用し、聴衆に気持ちを伝える練習を頑張りました。彼女のスピーチが多くの方々の心に響いたことを誇らしく思います」と語ります。
 常に自らに挑戦を課し、それを乗り越えようとするアリーシャさん。夢に向けてのチャレンジはすでに始まっています。


JSANZ Tertiary Japanese Language Speech Contest
JSANZ高等教育日本語スピーチコンテスト

JSANZ Tertiary Japanese Language Speech Contest ● オークランド日本経済懇談会「二水会」、笹川財団、国際交流基金の協賛とともに、大使館や領事館などの協力によって開催されているJSANZ(Japanese Studies Aotearoa New Zealand)主催の高等教育機関対象日本語スピーチコンテスト。それぞれの高等教育機関で選抜された日本語を学ぶ学生が、10名以上の聴衆の前でスピーチを行い、そのビデオ収録データを元に選考が行われます。2019年度のコンテストには7大学(IPU NZのほかAra Institute 、Massey University 、University of Auckland、University of Canterbury、University of Otago、Victoria University of Wellington)から12名の応募がありました。※テーマは自由、1機関から2名まで応募可 9月28日、優勝者であるアリーシャさんが学ぶIPUNZ(パーマストンノース市)において表彰式が開催されました。表彰式には小林弘裕駐ニュージーランド大使、グラント・スミス パーマストンノース市長も参加、優勝賞品としてアリーシャさんには日本・ニュージーランドの往復チケットが贈られました。

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