「45歳、今しかない」谷向 秀信氏


2002年にオークランド市中心地に位置する場所に日本食レストランまさと(現在はBurger King 115 Queen St)を開店、9年後に一旦リセットした後、同じ飲食業ではあるがまったく違うラーメン店を開業、今年の3月で8年目を迎えるらーめん道の店主、谷向氏に話を伺った。4その背景にはファミリーレストランで培ったノウハウがあったから。

ファミリーレストランで培ったノウハウ

北海道出身の谷向氏。喫茶レストランでアルバイトをしながら旭川の大学に通っていたという。当時、アメリカから大手レストランチェーン店のデニーズが開店するなど、ちょうどファミリーレストランの走りの時期でもあった。谷向氏が働いていた喫茶レストランもファミリーレストランに移行、そのまま働いていたという。

「しばらく働いていましたが、このままここで働いてて、いいのかなという気持ちがあったんです。それで、一旦退職して4年ほど違う職種に就きましたが、昔働いていた同僚たちから誘われて、また同じ職場に戻りました。その頃には、結婚もしていました」

家もあって仕事もあって、そのまま日本で働きつづける事ができていたが、45歳の時に今しかないと思い立ち、ニュージーランドに渡航したそうだ。

「きっかけは、よく判らないんですよね。ただ、神さまの声が聞こえたんです、ニュージーランドに行こうって。本当に。なぜか他の国と違って、ニュージーランドに関連する事を、刻み刻みで覚えていたんです。例えば、兼高かおるさんが出演されていた紀行番組(『兼高かおる世界の旅』1959年12月13日~1990年9月30日放送)で、ニュージーランドのマオリのハンギ料理の紹介があった事、また違う時期に新聞のイベント広告で、小樽にニュージーランドのシェフが来るという案内の事とか。ニュージーランドにいつかは行こうと思っていたから、子供もインターナショナルスクールに通わせていたんです」

日本食レストランをオープン

「ニュージーランド到着後、エージェントに相談して企業ビザを申請しました。それでクイーンストリートにレストランを開店したんです。46歳の時ですね。2002年に開店して2010年に閉店するまでの間、日本に帰ることもせず、働きました。立地とか何も判らないまま渡航して来て、紹介してもらった場所を見て回り、シティ中心の店舗に決めました。3店舗しかないビルの2階部分、ガラス張りの店舗で、企業ビザなので、2年間の黒字を出さないといけなくて大変でしたが、元気だったから、がむしゃらに働きました。少し疲れたのか、一度も日本に帰っていなかったから、一度リセットしたいなと思って、一旦、閉店しました。

転機

「日本に一時帰国して、働いていた頃の同僚たちと会って、「誰々は何処にいるよ」と教えてもらったんですが、ラーメン店で働いている人が多かったんですね。それで会いにいったんです。当時は、ラーメンを食べるのは好きだけど、自分ではできないと思ってたんです。ずっとラーメンは食べに行くものだと思っていたんです。でも食べに行って、話を聞いたりして、やりたいなと思ったんです。それですぐに、来月くるからノウハウを教えて、とお願いして、一旦ニューージーランドに戻って、また日本に戻ったんです」

実務をラーメン店で、仕込みを隣接のラーメン工場で学んだという。

業者に騙されて

「店はいつでも開店できる状態だったんですけど、ダクトがついていなかったので、開店が予定より少し遅れました。この国ですから、遅くなると想像していましたが、そうではなくて、騙されたんです。前金を払って、そのまま逃げらました。普通は、前金を支払ったら材料を購入して、設置してくれるんですけど」

元の店舗はカフェで、その前はインターネットカフェ、ダクト自体が設置されていなかったから、新規で設置を注文していたという。裁判所に訴えるも、相手はどこかに行ってしまい金銭の回収はできず、痛い勉強だったと谷向氏。結局は、新たに業者を探す事になり、無事に設置、予定より少し遅れたが、開店できたそうだ。

「次にお願いして前金を払う時、騙されない様にどんな人物かをみて、業者を信用する自分を信用するしかないと思ってお願いしました」

2010年12月に契約、翌2011年2月に開店した「らーめん道」。谷向氏が56歳の時だ。店名は、北海道の「道」と「道」を極めるの双方の意味を持っているそうだ。短期間でメニューを決めているが、大変だったのではと尋ねた。

「ファミレスでメニューを作成していたから、味や食材を決めたり経験していたから、メニューを決める事には悩みませんでしたね。ただ、日本から材料が仕入れることができなくなったりで、食材を変えなければいけなくなって、当初の味からは、少し変わりました。海外では、どうしても制限がありますね」

見る、観る、看る。

今後の方針を尋ねると、自分で次の店舗を出す事よりも、ノウハウを伝えたいという。

「最近は、いい人材と思ってもビザが取れない場合があるから、そういった意味でも難しくなりました。私が考えるいい人材は、料理を作るだけではなくて、お客さまをみることができる人材なんですね。単純に「見る」ことではなく、ただ「観る」だけでもなく、頭で考えて動く、「看る」事ができる人材。それがホスピタリティーというかサービス業だと思うんです。『QSCA』クオリティ、サービス、クリンリネスのQSC三拍子揃ってできると、Aのアトモスフィア、スタッフの笑顔と自信がお店の雰囲気を醸し出す、ファミレスの基本中の基本です。例えば、お店に小さいお子さんがいたらスプーンやフォークを出す、お客さまの注文が決まったら聞きに行くとか、お客さまをみて、自分で考えて動いていく事ができる人材の意味です。自分自身も年を取ってから開業しているから、年齢は関係ないと思います。食べていけないという不安もまったく無かったですね。やるしかないというか、苦しかったら働けばいいから」

ファミリーレストランで培ったノウハウを活かす事ができている、そしてそれを違う人に伝えたいという。場所さえ決まればすぐに店を出せる、同時に店舗を出す事もできる、人が揃えば店は運営できる、頑張ってこの国で儲けて欲しい、そして

「自分自身を信じる事が大切、騙されない様に相手をきちんとみる、自分の体力でできる事しかやらない、できない事はやらない。できる事をやるという事は、できない事、やりたくない事もやる事につながるから」と谷向氏は熱いメッセージとともに締めくくった。


谷向秀信:らーめん道店主。オークランド在住。趣味はカメラ。本人曰く「少年時代に高価で手が届かなかった憧れのカメラ。最近始めたカメラ小僧(爺)です」とのこと。

167 Symonds St, Eden Terrace, Auckland 1010

https://m.facebook.com/Ramen-Do

この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.108(2019年3月号)」に掲載されたものです。

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