「ないものとあるもの、どっちが多いと思う?」
通りがかりのタカが、数年前、話しかけてきました。
「どっちかな…?」
私は、おてんとうさまに目を向けて、指を折り始めました。
「数えちゃ、ダメだ。数えたら、ないもののほうが多くなる」
「そうなの?」
「そうさ」
タカは、しばらく、私の周りをぐるぐると回っていましたが、「おっ」と短く言うと一気に急降下し、ネズミを一匹捕まえました。
タカは、しばらくすると、ネズミを食べ終わったのでしょう。私のところへ戻ってきました。
「ないものとあるもの、どっちが多いと思う?」
やはり私は、空を見上げて指を折り始めました。
「数えちゃダメだって。ないもののほうが多くなるぞ」
「ないっていうのは、ダメなことかしら?」
私がまたおてんとうさまを探しながらつぶやいている間に、タカは遠くへと去っていきました。
「ないっていうのは、ダメなことかしら?」
私は今でも時々、七色の陽の光がクルクルと回るのを眺めながらひとりごちます。
この記事は、ニュージーランドのビジネス系無料雑誌「KIWI TIME Vol.105(2018年12月号)」に掲載されたものです。