今夜の月の色【第6話】

【第6話】

《リカさん、こんにちは。

こちらは、朝からずっと雨です。

今日の撮影が屋外ではなくスタジオでよかった。しかも、気の合うクライアントとの仕事だったから、気分もよかったしパワーももらえたかな。でも、リカさんに見せられるニュージーランドの風景は、今日は撮れなかったな。ごめんね。

あ、そういえば、教えてもらったナスのレシピ、美味しくできました。ありがとう。今日もお疲れさま》

ニュージーランドに住むというヒロさんという男性とメールのやり取りを始めてから、一カ月が経った。インターネットで調べものをしている最中、どういうわけかメル友を募集する掲示板を見つけ、さらにどういうわけか、五十代後半というヒロさんという投稿者にメールを送っていた。

オセアニア在住というヒロさんの投稿内容で、二十年も前の留学生活が急に懐かしく思い出されたからかもしれないけれど…。そのときの心境も勢いも、たった一ヶ月前のことなのに、よく覚えていない。それでも、ごく自然にメールのやり取りは始まり、ほぼ毎日のようにお互いの生活について話すようになるまでに、あまり時間はかからなかった。

ヒロさんは、三十年以上前からニュージーランドに住み、娘さんが二人いるのだそうだ。フリーランスのカメラマンで、街灯のない郊外に住んでいるらしい。ほぼ毎日、撮影か打ち合わせをしていて、さらにひとりでの作業も多く、忙しそうだ。そんな中で、植物や動物、街の風景などの写真を『留学時代を思い出して懐かしいだろうから』と言って、小まめに送ってくれる。

私が伝えている自分のことは、四十代のシングルマザーだということ。ニュージーランドに留学していたこと。あとは、日々の仕事のことや子どもとの会話など他愛もないことだけれど、お互いのちょっとした話が相手の話を引き出しているような気がする。

「ごめんね…か」

アラームを止めてからメールチェックをするのが、いつの間にか毎朝の習慣になっている。メールの中のたったひとつの単語をつぶやきながら、頬が緩んでいるのが、鏡を見なくても分かる。最近は、砕けた言い回しも増えてきたような気がするから、お互いに。

「おはよう」

子ども部屋のドアを開けて歌うように声をかけると、キッチンに向かって朝食の準備をする。気分よくこの時間を始められるのも、ヒロさんのおかげだ。

「おい、水」

不意に後ろから聞こえる声に、鼻歌が流れていた背筋が、一瞬にして凍りついた。

ほほか:主に日本向けに、女性の美容健康についてのコラム、女性向け恋愛小説等を執筆するフリーライター。外見の美よりも内面の健康と美しさにフォーカスして、より多くの女性が充実感とともに毎日を生きるサポートとなる文章がテーマ。2002年よりNZ在住。散歩、読書、動物とのたわむれ、ドラマと映画鑑賞が趣味。

◆題字・イラスト◆ はづき:イラスト、詩、カードリーディングを通じて癒しを伝えるヒーラー。すべての人の中に存在する「幸せを感じる力」を、温め育てるヒーリングを目指す。

Instaguram:nzhazuki┃w:malumaluhazuki.com

この記事はニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.96(2018年3月号)」に掲載されたものです。

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