真実の悩み [第10回]

「すみません、騒がしくて」

アクセントがない日本人訛りの英語が前方座席から聞こえると、母親らしい女性が後ろ向きになり少しこわばった顔を見せた。

「大丈夫ですよ。日本の方ですか」

問題ないという英語での即答に続けて、日本語で質問してみた。

「はい、そうですけど。よくわかりましたね。今から帰られるのですか」

話し始めた2人は、たわいもない会話の中でお互いに共通点を探している様子に感じとれる。

「いえ、旅行に行こうと思っていて。あまり南島に行った事がなくて」

朝10時に北島のオークランドを出発した飛行機は順調に進んでいる。このまま行くと時刻通り南島のクライストチャーチに到着する予定。七月の空からの景色は山の辺りが雪一色で、雲一つない天候から真冬である事がすぐに分かる。機内は学期休みのために小さい子供連れの家族が多く、ビジネスのための乗客は少ない感じがした。初音は夫の聡と共に長い休日を取り旅行に出かけて、最近始めたウォーキングを楽しみにしていた。久美は日本からの一時帰国から戻り、国内経由で家族と共に普段通りの生活に戻る事に不安な気持ちでいた。

「初めてでしたら、まずは丘の上からの景色を見に行って、海沿いのビーチに行くといいでよ」

久美は初対面の初音に何か親近感を持ち、立ち上がったまま前かがみになって和やかに話した。声は大きくなかったが、座席をまたいで話す姿が機内では目立ち、周りの乗客からの視線を感じた。すると、久美は上体をゆっくりと前に向き直し椅子に座り直した。隣に座っている子供の椅子を後ろに目一杯倒し、自分の席との間に隙間を作って覗き込むように後ろの席の初音に向かって話しを続けた。

「どの地域に行かれるのかも聞いていないのに、ごめんなさい」

数日前に東京で出会った友達との再会がとても有意義で、初音に対して自分の友達に話しているような感覚を久美は覚えた。あの時は智との離婚の事を初めて打ち明けていた。子供が3人いて一人でどのように育てるのか、収入が減ったら生活は苦しくなるのか。何より離婚したら本当に幸せになれるのだろうか。

「まずは有名なミルフォード•サウンドに行って数日間過ごそうと思っています。その後は長距離バスに乗っていろいろと回ってトレッキングなどしようかなと。とても綺麗な景色があり観光するには最高の場所といろんな人に聞いていたので」

丁寧な口調で興味を示して話している久美に初音は好意を抱き、英語圏で生活をしている中での知らない人からの日本語はすんなり耳に入ってくる。会話を続けられるのは自然の流れであった。今まであまり人と積極的に話すには抵抗があった。何か嫌なことがあるとすぐに落ち込んでいたが、聡との出会いと支えで普段から落ち込む事が減り精神的に楽になっていた。これから独りでいる時にもこんな感じでうまくやっていけるのか、新たな仕事や趣味を見つけて生活が楽しくなのるのか。何よりこれからどんな時でもすぐに立ち直って幸せになれるのだろうか。

2人の想いと会話が交差する中、飛行機の機体は急に大きく揺れ始めスチュワーデスが慌てた様子で機内を小走りしていた。気圧の影響であるというアナウンスも聞こえてこない。その時、乗客から大きな悲鳴が上がり。

執筆:20 歳の時に過ごした北島タウランガの思い出が忘れられない京都出身。大阪と東京に移り住み、カナダでスキー、オーストラリアをオートバイで一周した後、NZの銀行で10年間仕事をしながら短編小説5話を執筆(キィウィの法則、初めての出会い、私の居場所、10枚のチケット、魔法の子育て)。夢は日本で本を出版すること。

この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.100(2018年7月号)」に掲載されたものです。

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