真実の悩み【第11回】

 

空は白一面に透き通り、太陽の光が窓から差し込んでいる。先ほどまで上下に揺れていた機体は安定さを取り戻し、まるで海に浮かんでいるかのようにスムーズに進行していた。動揺と奇声が飛び交っていた機内は嘘のように静まり返り、乗客は物音一つ立てずに到着するのを待っていた。

久美は、作り笑顔で横に座っている子ども達をなだめ、安心させるように努めて早く着けばいいのに、と智に目で合図をした。

初音は、上体が硬直しながらも聡の手を握りしめ、上空を眺めているかのように顔を上に向けていた。

「これからどんな人生が待っているのだろう」

久美と初音は二人共、同じ時間に同じ言葉を発していた。飛行機は航空時間の遅れを取り戻すかのようにスピードを上げ、到着した時には予定の時刻通りになっていた。シートベルトのサインの点滅が消えると、久美はすぐに立ち上がり、上の棚にある荷物をおろしにかかった。初音はシートベルトを付けたまま窓の外を眺め、特に動こうとはしなかった。

久美は何に急いでいるのか分からず、座席に座り直し、子ども三人を見つめながらこれからのことを考えていた。今まで家族や友人の不幸もなく生きてきたが、経済的に裕福になったことはない。けれど、宝くじの当選で大金を得て、貧乏になることはなくなった。その金額で新築や新車を買い、お金を使い果たすかもしれない。きちんと資産運用して銀行預金の利子などで食べていけるかもしれない。いずれにしても今より生活の質は向上していくだろう。

家族とはどういう関係になるのだろうか。今まで通り仲良く暮らし、子どもが独立してからも問題なく付き合っていけたらいいと思う。もしかしたら、仲が悪くなりいつも些細な事で喧嘩をしたり家族とは離れて独りで暮らしてみたりするのかもしれない。

初音はゆっくりと、自分の脳裏に将来の人生を描き始めていた。生まれた時からお金に恵まれながらもほとんどの事に落ち込み暗い人生を送ってきた。しかし、これからはどんな事にも立ち直って生きていけるだろう。出来る限り前向きにとらえていつも良くなると自分に言い聞かせられるだろう。何か嫌な事があっても独りで抱え込まず人と接しながら問題を解決していけたらと思う。

二人だけで暮らす毎日は、退屈になってしまうかもしれない。子どもが欲しいとかそれともペットを飼って愛情を注ぐのか。どちらにしてもこれまでより必ず生きていることに幸せを感じられるだろう。

「そろそろ行こうよ」

無邪気な甲高い子どもの声で久美は我に戻り、優しい穏やかな聡の言い方で初音は席を立ち上がった。

女性として年齢も同い年になる久美と初音は、今までの生き方とこれからの人生が入れ替わったような気分になっていた。けれどお互いにどうしても幸福になれない本当の理由が存在していた。

 


執筆:20 歳の時に過ごした北島タウランガの思い出が忘れられない京都出身。大阪と東京に移り住み、カナダでスキー、オーストラリアをオートバイで一周した後、NZの銀行で10年間仕事をしながら短編小説5話を執筆(キィウィの法則、初めての出会い、私の居場所、10枚のチケット、魔法の子育て)。夢は日本で本を出版すること。

この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.101(2018年8月号)」に掲載されたものです。

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