真実の悩み【第9回】

 

第9回

好きな人と一緒に過ごす事を選ぶのか、叶えたい夢に向かって人生を歩むのか。ほとんどの人は、普通に流されるまま学生生活を終え、社会に出てからは、自分自身で行き先を決めていく。すぐに結婚して家庭を持つ人は、幸せな日々を過ごせるが、一人の自由な時間が持てないかもしれない。やりたい仕事が出来るように努力して夢を叶えれば、その時は家族を持たず独りぼっちになるかもしれない。

どちらが良くてどちらが悪いわけでもない。早くに結婚しながらも好きな仕事に付けている人もいるし、一生一人で生きて行く事を決めながらも興味のない仕事をしている人もいるだろう。若い時はよくそんな事を考えていた。そして、日本行きの飛行機に乗りながら同じ事を再び思いめぐらせていた。

久しぶりの東京は、あまりにも騒がしくて落ち着かない気がした。成田空港から電車で東京駅に着き外に出ると、ふあっとした生ぬるい空気が肌で感じ取れた。電光掲示板が太陽の日差しと共にやたらと明るく辺りを照らしていて、流れの速い人混みに吸い込まれていった。ニュージーランドの冬から日本の夏に来た事を思い出し、六月でもこんなに熱くなるのかと厚めのセーターを脱ぎ始めた。

駅前にあるホテルに家族と共にチェックインしてから、一人で待ち合わせのカフェへと向かった。店に入る前に見覚えのある人が携帯を見ていた。

「ひさしぶり、待っていてくれたの」

いつもとは違う様子の久美は、声が高ぶり表情がとても和らいでいるのが分かる。

「ううん、来たばかり。変わっていないね。その言い方」

高校の友達に会うのは何年ぶりなのか、数えることさえ恐ろしくなる。

「忙しいのに来てくれて有り難う」

日本で一番仲のいい友達にさえ、久美は丁寧に接してしまう。

「何言っているの、東京に住んでいるからすぐ来れるよ。久美の方がわざわざ遠くから来たじゃない。それに、私未だに一人だし」

お互い微笑みながら店内へと入り、飲み物を注文した。出世払いでいいから、と友達がおごってくれた。出世したのはあなたじゃない、と昔と同じようなやり取りをした。二人で向かい合って座る席はすでに満席で、仕方なく二人で並んで座るガラス張りに外が見える席に座った。

「ニュージーランドはとても住みやすくて人もいいのだけど、相変わらず貧乏で。何処に住んでもお金に困るのは一緒みたい」

自分が思っている事をすぐに伝えても友達は気持ちを汲み取ってくれる。

「私はずっと仕事してきて管理職にもなってお金には困らないけど、結婚していないから何か最近寂しくて」

気を使わずお互いの愚痴を言い合うのもなぜか心地よく感じてしまう。クーラーが効いている店内は薄着では肌寒いが、友達の人としての暖かさが伝わった。外を見ながら話していると太陽が雲に隠れて明かりが少しだけ暗くなってきた。その時、急に神妙な顔つきで久美はある相談をした。

 

執筆:20 歳の時に過ごした北島タウランガの思い出が忘れられない京都出身。大阪と東京に移り住み、カナダでスキー、オーストラリアをオートバイで一周した後、NZの銀行で10年間仕事をしながら短編小説5話を執筆(キィウィの法則、初めての出会い、私の居場所、10枚のチケット、魔法の子育て)。夢は日本で本を出版すること。

 

この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.99(2018年6月号)」に掲載されたものです。

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