「焙煎、挽きたて、淹れたて」鹿野由吉氏

2018年12月、オークランド市オネハンガに開店した「Dear Deer Coffee roasting bar」は、メインの通りから一本奥に入った場所にあるビルの古いガレージを改装して作られた雰囲気のあるコーヒー専門店だ。香ばしい匂いが広がる店内で、ひとりハンドドリップでコーヒーを淹れる、オーナーの鹿野氏に話を伺った。

「カリタ式」とともに

日本のコーヒー機器メーカーKalita(本社:横浜市神奈川区)。同社独自の三つ穴構造ドリッパーとペーパーフィルターを組み合わせたコーヒーの抽出方法のことを「カリタ式」と呼ばれている(出典:https://www.kalita.co.jp/coffee/kalitastyle.phpより)。

60年前にKalitaブランドを立ち上げた創始者を親族に持ち、そして12年前に会社を退職してコーヒーロースターを使ったビジネスを始めた鹿野氏の父親。コーヒーに関するビジネスという環境がすぐ近くにあり、鹿野氏自身も同じビジネスモデルをやりたいと思っていたそうだ。

「まずはレストランビジネスの勉強をしないとダメだと思って、アメリカに2年ほど滞在しました。何かしらのビジネスを始めたかったけど、ビザの問題があって、結局はできなかったんです。それから英語圏で起業できる国を探した時に、ニュージーランドを見つけたんです。

 最初は日本から起業家ビザを申請したけど、却下されました。その時の年齢が28歳だったので、未だワーキングホリデービザが利用できると判って、ビザを申請、夫婦2人で渡航してきました」

渡航後は、日本食材を輸入している卸会社に勤務。同社の物流部門で働き、永住権を取得。その後に退職し、ようやく起業することとなった鹿野氏。その間、アメリカ渡航から数えると、約5年の年数が掛かったという。

「カリタの製品を日本から輸入して、この国で実際に使いながら、自分の名前と店、そしてカリタの製品を拡げていく、という思いがあります。

 起業前に働いていた卸会社で、商品がこの国に輸入されてからの流れを勉強させてもらいました。コーヒーに関して言うと、コーヒー業界で働いた経験がないので、毎日が勉強です」

幅広いレンジの生豆

カリタの製品を使って、コーヒーを淹れる時に重要なのは、フレッシュな豆だと鹿野氏はいう。世界各国から高品質の生豆(きまめ)を仕入れて焙煎、挽きたての豆を淹れるというスタイル。焙煎した豆は、約2週間以内が一番おいしいから、大量に焙煎するのではなく、量を調整しているという。

「僕の場合、レンジが必要なんです。例えば、ブラジル産の豆だけがあればいいという訳ではないので、ペルー産もその外の色々な国の豆の種類が欲しいから、少しづつサプライヤーから購入しています。基本的に、コーヒーは飲む前に豆を挽いた方がいいんです。店内でお出しするコーヒーは、あらかじめ焙煎して、注文を受けてから豆を挽き、コーヒーを淹れています。だから、1杯のコーヒーでも時間が掛かります。

 カフェに行ってエスプレッソを注文すると、ガリガリって豆を挽いていますよね。それをグラインドと呼びます。フィルター用とエスプレッソ用でも挽き方が違うから、そこがまたおもしろいんですよね。グラインドの荒さっていうか、砕いた豆の大きさが違うんです。フィルター用の方が、粒が大きいんです。豆にもよりますが、水の通り方も全然違って、エスプレッソの場合はハイプレスだから、水をなかなか通さない、逆にフィルターの場合はプレッシャーが少ないから、ナチュラルに味が出るとされています。根本的に、両者とも、全然違う飲み物なんです。だから、エスプレッソがいいよね、フィルターがいいよね、という話では表現できないんです。ワインと同じで、白ワインと赤ワインの世界、趣向品の世界だから。ミルクを入れるのは邪道と言う人、入れた方がいいと言う人、それぞれの好みで、どっちがいいとか、じゃないんです」

お客さまが飲んでおいしいと思うものがおいしい

卵焼きの作り方が人それぞれ違うのと同じで、コーヒーの淹れ方も人によって多少は異なると鹿野氏はいう。確かに、同じ豆を使ったコーヒーを飲んでも、天気やその日の気分、店によっても違う。

「店のスローガンでもある『Your Day, Your Way』。コーヒー業界で働いていなかった事は、自分にとってポジティブなメリット。こだわりがないから、よかったと思っています。僕が飲んでおいしいから飲んで、という風に押すような一方通行のコーヒーの店ではなくて、お客さまが飲んで、おいしいねと言われたものがおいしい訳で、僕がおいしいものがおいしい訳ではない。まずは飲んでみて。お客さまが欲しいものかどうかというのは、飲んでみないとわからないから」

 同店ではカリタという製品を使用し、基本的にはブラックコーヒーで飲む。そのため、豆のより新鮮な味をビビットに楽しむことができる。

コーヒーはあくまでもサブ

オークランドのカフェに、焙煎したコーヒー豆を卸している鹿野氏。同じ味ではなく、各店舗にあわせたコーヒー豆をブレンドして、届けているという。

「お店の方と一緒に、お店にあったおいしい味を見つけて、そのレシピを保管しています。注文を受けてから焙煎して、納品しています。個人の方の場合も同じで、その人の為に焙煎するので、飲む側に選択権がないという状況ではなくて、選択していただくんです。

 コーヒーって、サブの存在であることが多いかなと思うんです。メインじゃなくて、引き立て役なんです。甘めのケーキにあう味や、サーモンのサンドイッチと一緒に飲むコーヒーの味は違うはずだし、オーナーやシェフ達が必ずこだわっているはずなんです。だって、せっかく作ったおいしい食べ物を、台無しにするかもしれない、から」

このコーヒー豆と豆をあわせると、こんな味になるというセオリーはあり、その種類も無限にある。鹿野氏は、コーヒーのスペシャリストになりたいと思う反面、コーヒーが好きな人やコーヒーのスペシャリストになりたい人達が楽しめる店にしたいという。


ワンオペレーションができる店舗。ガレージ+45㎡でスペース探し

「店舗を探す時、45㎡以下のガレージと決めて探しました。この数字は『1人オペレーション』が出来る大きさなんです。現在のこの店舗は33㎡で、倉庫部分を除いて、店舗部分は約20㎡なんです。僕が一人でできるという事は、誰でもできるという証明にもなるんです。店舗の大きさがこれ以上大きくなると、誰かを雇用しないといけないから、そうすると利益がでないから、ちょうどいい大きさなんです。場所は、どこでもよかったですね」

コーヒー豆を売る事が主な事業内容。ニュージーランドには、カリタ製品を扱っている店がまだ無く、同店でプレゼンテーションをすることで、カリタの製品、そしてこのビジネスモデルを知ってもらい、拡げていきたいと鹿野氏。初期投資では焙煎機の返済が5年ほど残っているそうだが、それ以外の分は、自分で改装出来る部分は自ら作業し、できるだけ費用を抑えたという。

「起業してから8ヶ月目には、初期投資分のマイナスは無くなって、ゼロの状態になります。1人で運営できるボリュームだから、小売販売で得た収入から家賃や仕入れ分を支払うことができるんです。2店舗目も探していて、そこも同じように、小売販売だけで収支があうようなボリュームの予定です。それから、大手の契約を受注していきたいと考えています。1店舗だけでは、大量に受注があると本来メインであるはずの小売業がサブになってしまい、自分のやりたかったことと別の形になってしまうので。今はまだ、そのバランスを取っています」

2店舗目のオープンを計画中

「このビジネスモデルがおもしろいと言ってくれる方がいるので、現在の店舗を運営しつつ、次の店舗探しを始めています。2店舗のオープン後は、今よりも多くの量を焙煎することができるので、卸の方にも力を入れていきたいと考えています。

個人のお客さまにもこのコーヒー豆が気に入ってもらったら、自宅で飲んでいただく用に焙煎、ドリッパーが欲しい方には購入していただく。そして話は戻りますが、カリタの製品を拡げていきます」

店内では、コーヒー豆の販売の他、コーヒーの販売も行っている。1杯づつ、自分だけの為に淹れてくれる、贅沢なコーヒーの味わいと時間を楽しめるガレージ空間。インタビューの終わりに焙煎の注文が入った。「僕はコーヒーマンじゃないんです、ビジネスマンなんです」といいながらも、生豆に向き合う姿は、コーヒースペシャリストそのものだった。

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YUKICHI SHIKANO|鹿野 由吉(シカノ ユウキチ)

Dear Deer Coffee Roasting Bar 代表。オークランド在住。趣味は飲食

Dear Deer Coffee Roasting Bar

www.deer-field.com|130 Onehanga Mall Rd., Auckland(YMCA GYMと無料駐車場前)|電話:027-528-1131|営業時間:7:00~15:00(9:00~の場合もあり)

定休日:日曜・祝日(日曜日はTakapuna Marketに出店中。ウェブ(deer-field.com)、Facebook(deardeercrb)、Instagram(dear_deer_crb)で要確認)

料金:250g/$12~、500g/$22~(生豆の重さで計算するため、焙煎後は10ー20%減少します/焙煎所有時間=約10分かかる。日本式ドリップコーヒー$4~、エスプレッソNZ$4.20~


この記事は、ニュージーランドのビジネス系無料雑誌「KIWI TIME Vol.110(2019年5月号)」に掲載されたものです。

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