自然のことだま(7話)

その人は、毎日のように私の前にやって来ました。
暑い日には、私の枝に葉に、水浴びをさせてくれました。
寒い冬は、いつも私の風上に立ってくれました。
その日起きたことを話してくれました。
そのとき思っていることを聞かせてくれました。
いつもいつも、微笑みかけてくれました。

しかしその人は、あるとき、いなくなりました。
遠くへ引っ越してしまったのです。

太陽が照り付ける夏の午後も、
鋭い風がやまない真冬の朝も、
花と蝶が躍る青空の日も、
どこまでも穏やかな昼下がりも。
…もう、あの人は現れません。


でも、ずっと、在るのです。
私に張り巡らされた脈の中に、
私の周りのすべての空気の粒に、
どの瞬間も、必ず。

あれから、私の毎日は、私の生涯は、私の命は、あの人へのラブレターです。

あの人が、今日も幸せでありますように。
あの人が、今日も笑っていますように。

そして、贅沢を言えるのであれば、私の吐いた息が少しずつ形を変えながら風に乗り、あの人の目の前に、幸せの種となって現れますように。

朝な夕な、私は、そう願っています。

この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.109(2019年4月号)」に掲載されたものです。

最新情報をチェックしよう!
>雑誌「KIWI TIME」について

雑誌「KIWI TIME」について

2010年創刊。雑誌「KIWI TIME(キウィタイム)」は、K&J MEDIAが毎月発行するビジネス系無料雑誌です。ビジネスに関する情報やインタビュー、仕事の息抜きに読みたくなるコラムが満際です。

ニュージーランドで起業している方や起業をしようと考えている方を応援します。

CTR IMG
PHP Code Snippets Powered By : XYZScripts.com