オークランド中心地、高層ビルの2階奥にあるヘアサロン、MIKA STYLES。オークランドのジャパンデーで着付けのボランティアをしたり乳がん患者をサポートするイベントを企画したりと、とても意欲的な同サロン代表の美香さんにお話を伺った。
31歳の誕生日を迎える前に
ニュージーランドへ
大阪の美容学校を卒業後、実家のある京都で美容師として働いていた美香さん。もともと英語に興味を持っていたこともあり、国際交流のイベントに参加していたという。
「そのイベントで出会った女性が、ニュージーランド出身だったんです。彼女は学校で英語を教えるために日本に3年間滞在していて、日本語がすごく上手でした。私たちは日本語と英語を交えながら、一緒に食事やヨガに行ったりしていました。その時に初めて、ワーキングホリデーという制度があるのを知ったんです。私が29歳の時でした」
26歳で結婚、今年でちょうど15年を迎えた美香さんご夫婦。測量や現場監督の仕事をしていたご主人に、ニュージーランドに行くと話をしたそうだ。相談ではなく、決定事項として。
「私1人で行こうと思っていたんです。でも主人は、仕事を辞めて一緒にニュージーランドに行くと決めてくれて。その頃、主人は英語がほとんど話せなかったんです」
そして2人は、美香さんが31歳の誕生日を迎える前にニュージーランドへ。語学学校に通った後、美香さんは美容師として勤務、ご主人の仕事もすぐに決まったそうだ。
「図面が読め、機械も使えるということを知って、建設の仕事をされている私の友人のご主人のお友だちが、『明日から来い!』って言ってくれたんです。今ではスタッフ3人を雇用する会社を経営しています。」
ワーキングホリデービザから就労ビザに切り替え、後に永住権も取得できたそうだ。
「美容室で働いていましたが、自分でやってみたいと思って、レンタルチェアできないか探していたんです。事務所の一部を借りるオフィスシェアってありますよね。私の場合は椅子をお借りして、ヘアサロンを始めようと思ったんです。フラフラって今のサロンに来て、レンタルチェアできないかオーナーに聞いてみたら、いいよってすぐに返答を貰えて。それで独立したんです。」
雇われる側から独立
もうやるしかないなって
半個室で約3畳ほどの広さの空間を借りることができ、ハサミと技術だけで始めたヘアサロン。当時は家賃を払うのがやっとだったという。開店後1年半過ぎた頃、オーナーの親御さんが倒れたこともあり、ビジネスを引き継がないかと言われ、約65㎡の広さを借りることにしたそうだ。不安がなかったのか、ご主人に相談されたのかを聞いてみた。
「相談しました。主人は、私がやりたいならやってもいいよって。だから、もうやるしかないなって。サロンを引き継いだのがクリスマスホリデーの時期で、ホリデー中にリノベーションしたんです。壁をパールホワイト、木目部分はこげ茶にして、仕切りの壁を撤去してオープンな雰囲気の店内にしました。自分達だけで作業する予定だったんですけど、お客さまも手伝ってくださったんです。みんなで色を塗ったり、壁を壊したり。リノベーションが終わる頃、手伝ってくださった方から、こげ茶のペンキを少し下さいって言われて、お渡ししたんです。そうしたら、店の色と同じこげ茶色に塗った時計をプレゼントしてくださったんです」
壁には店内の木目と同じこげ茶色に塗られた掛時計が飾ってあった。店内によく馴染んでいる、いいプレゼントだ。シャンプー台などの水回り以外は、ほとんど自分達で作業をしたという。ポイントになる木目に塗るこげ茶の色は、何度か試してから決めたと話してくれた。ヘアサロンを運営して約1年過ぎた頃、ネイルサロンの「SATOMI art of nails」を運営するさとみさんがスペースシェアすることになったそうだ。
お客さまを好きになること
お客さまにとっての癒しの空間に
今年で9年を迎えるMIKA STYLES。これまで続いてきた秘訣とお客さまに対して気をつけていることを聞いてみた。
「信頼関係でしょうか。家族じゃないけど、家族みたいな。1番大切なのは、お客さまを好きになることですね。自分の機嫌が悪い時もありますが、『ダメ! お客さまはここが好きで来て下さってるんだから』と思って、気持ちを入れ替えています。髪を切るだけではなく、ゆっくりしていただける癒しの空間になるよう、いつも心がけています」
乳がん患者をサポートするイベント
髪の毛が人の役に立てると知った
髪を役立ててもらいたいと、乳がん患者のサポートをする財団「Breast Cancer Foundation New Zealand」に申請。チャリティーイベントの目的は「自分の頭を坊主頭にして髪を使ってもらい、賛同した方からの寄付金を活用いただく」こと。20年以上の美容師の経験を持つみかさんは、いろいろな髪型にしてきたが坊主頭にしたことはなかったそうだ。
「3,000ドルの寄付を目標にしたクラウドファンディングを始めました。ただ、芸能人の方がチャリティーするのとは違って、私が企画したイベントに賛同していただけるのか、全く判りませんでした。イベント日を去年の11月2日に決めて、お客さまにご案内を1件づつお送りしたんです。友人の女性と男性2人と私の合計4人が坊主頭になり、財団に資金が届く仕組みにして、目標を超える6,111ドルを集めることができました」
今までは自分で考えて企画したことがなく、集めた資金を研究や誰かの役に立たせるという経験はなかったそうだ。髪の長さが約31センチは必要になるので、2、3年伸ばして定期的にチャリティイベントを行うと話してくれた。
髪型では人間の中身は変わらない
「私は高額な寄付をしたり資金を出したりはできないんですが、金額ではなく気持ちですよね。坊主頭にして思ったのが、髪の毛という外見は変わっても、中身は変わらないということ。もしこの先、癌になって髪の毛がなくなったとしても、おしゃれはできると思っています。他の方にもその手助けができればと」
胸の下まであった髪を約60センチほどを切って坊主頭にした後は、ピンクやグレー、グリーンに染めておしゃれを楽しんでいた美香さんはこう話す。
お金は稼げばいいけど、人毛は作れない
自分の身体を使って支援できること
「私が髪を切ったことによって、さまざまな形で誰でも支援ができるということを示せればと思っています。私自身、自分の身体を使って支援する方法があるということを知って感動しました。お金は稼げば寄付できるけど、人毛は働いても作れませんから」
ニュージーランドでは染めた髪の毛は寄付できないため、チャリティーイベントで集まった髪の毛は日本にある団体のジャーダック(www.jhdac.org)に送り、小児癌や脱毛症などで人毛が必要な方に使用してもらっている。今でも、長い髪の毛を切るお客さまにはお尋ねして、髪の毛をジャーダックに寄付しているそうだ。
ゴミを減らして
環境にもお客さまにもやさしく
「非営利団体のサステインタブル・サロンズ(http://sustainablesalons.org/)に加入して、ゴミを減らす活動もしています。これまでは美容室のゴミ全てを廃棄していましたが、団体が回収して再活用しています。例えば切った髪の毛を堆肥を作るコンポストに入れたり、ストッキングに入れて海に流れた油を取ったり、パーマ液などをきれいな水にして道路用として使用したりして、約95%は再活用できているそうです。その回収費用を、お客さまから2ドルづつ寄付していただいています。今では、ゴミの量が約1/5になりました。タオルも使用後はコンポストに入れられるように、土に返る素材を使用しています。もっとゴミを減らしてお客さまの髪や肌に優しい素材を使用し、居心地のいい空間を提供していきたいと思っています」
MIKA SAKATA:酒田 美香
MIKA STYLES代表
京都府出身
美容師免許のほか、リフレクソロジー資格取得(若石健康法)、レイキマスター勉強中
趣味はスイミングとピラティス
www.mikastyles.co.nz|Facebook:mikastyles.hair
Level 2, Metropolis Hotel, 42 High Street, Auckland CBD
+64 9 302 0700
インタビューを終えて:
乳がん患者をサポートするイベントの質問に「髪の毛という外見は変わっても、中身は変わらない」という答えが印象に残った。確かに切っただけでは何も変わらない。不安や機嫌がいい悪いなど自分自身の心が、表情や姿勢に表れるだけだ。当たり前のことを当たり前にする人、そう感じた。
この記事は、ニュージーランドの日本語フリーペーパー「KIWI TIME Vol.101(2018年8月号)」に掲載されたものです。